・・・どん どん どん
ぴー ひゅる ひゃら・・・
どこからか、遠く、祭囃子が聞こえる。
暗い部屋の中。 板張りの天井。
見覚えがある、シマキたちの家 ―
(なに、ぼーっとしてやがんだよ)
わきからぬっと、ハヤテの顔が現われた。
「うお?!」
(静かにしろいっ!)
ハヤテは小声で鋭くささやき、勘介の口を手のひらで押さえた。
(姉さんやソヨに、聞こえちまうって、言っただろうがよ!)
(お、おう。 すまん・・・)
この情景にも、憶えがある。
二十歳になるかならぬころ。権現さまの祭りの夜。
悪友たちからこっそりと離れ、ひとりこっそりシマキ姉さんたちの家へと ―
シマキ?
姉さん?
(なんだよ、またぼうっとして)
(あ、ああ。 ごめん)
(さっきの意気はどうしたんだよ)
― シマキ姉さん、すまん。 だが、俺は。
もう、止まらん。 止められん ―
また頭を何かがちらつく。
頭の中と目に映るものが、先ほどからずれているように感じた。
(止まらんとか止められんとか、まったく。
・・・ちょっとかっこいいって、思っちまった。 へへっ)
(ハヤテ、姉さん)
(んで、どうするんだよ)
いつもの半纏ではない。 薄い襦袢をまとっている。
襟と裾が開き、内腿と胸元が覗く。
日に当たる部分は香るような小麦色。
当たらぬ部分は、シマキのそれよりなお白い。
(まったく、悪いこと覚えちまったんだな、勘介。
あたしのこと、どうするつもりだよ ー ?)
― ふふ。 悪い男ですね、勘介さん。
わたしのこと、どうするおつもりなんですか ―?
またなにか、ずれを感じる。
だがもう、そんなものにかかずらってる暇はない。
(・・・姉さん)
襦袢の紐を掴み、引いた。 はらりと解ける。
襦袢の合わせ目を開いた。 はらりと落ちる。
(勘介、さん)
小麦色の手と足。
胴は真白かった。
胸も腹もへそも、ふたつのふくらみも。
その先、てっぺんだけが桜色。
(ハヤテ姉さん。 約束、憶えてるか)
(忘れるもんか。 ずっと、ずっと待ってた)
― 勘介。 いつかきっと、今日の続き、しような。
あたし、待ってる。 ずっと待ってるから ―
(俺も約束した。 あなたと―)
あなたと?
― でも、おれ、いつか、姉ちゃんを嫁にもらう!
ちゃんといっしょになって、子どもつくるよ!
・・・ソヨ? ハヤテ・・・?
(覚えてるよ、それだって、絶対忘れない。
あたしいつかきっと、あんたの赤ちゃん産むんだ・・・)
(・・・すまん。 それは、まだできない)
(・・・・・・・・・)
(俺はまだ、ただの若造だ。 あなたを養える力がない。
・・・だが、きっと。そう遠くないうちに必ず、俺はあなたを迎えに行く)
(・・・そうか)
(絶対にそうする。 どこにも行かず、姉さんを連れて帰る。
俺は今日、そのあかしを立てるためにここに来た)
ハヤテの頭に腕をめぐらせ、顔をぐいと引き寄せる。
上気した顔。 吐く息が熱い。
(ハヤテ姉さん、俺のものになってくれ)
(・・・じゃ、あなたとか姉さんとか、もうやめろよ。
あたし、あんたのもんに、なるんだろ?)
― シマキ姉さん。 俺のものになってくれ。
― 姉さんは、もう、やめにしてください。
わたし、あなたのおんなに、なるんでしょう ―?
(ハヤテ) (勘介さん―)
ふたりはお互いをかき抱いた。
口をつなぎ、腕をまわし、胸を合わせ、足をからめ 、
お互いのぬくもりとうるおいを、こすりつけあった。
― ・・・薬? 塗らないか、って?
― いや、いらない。
― わかってるさ。 よく効く薬なんだろ?
痛くなくなって、とっても気持ちよくなるんだろ?
― それが、嫌なんだ。 痛くてもいい、痛くしてほしい。
あたしは気持ちよくなれなくても、いい。
最初くらい、あたしだけで、勘介をうけとめてあげたい ―
(何か言ったか?)
(ううん、何も。 ・・・来て)
勘介はおのれを茂みの奥、ハヤテの芯にあてがった。
熱くうるむそこに、深く一息に ― 。
「あ、ぐっ!」
押し殺した苦鳴が漏れる。
ハヤテの体が痛みに跳ね、勘介を押し戻す。
(・・・ハヤテ)
(ごめん、勘介さん)
(・・・・・・・・・)
(平気だよ。 びっくりしただけ。 さ、もう一回)
つとめて明るく軽く言っているが、顔はまだ青ざめている。
しかし、その瞳の色は強かった。 覚悟の色。
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