それからおつるは、武三といっしょに暮らしはじめた。
最初はうたぐっていた武三も、おつるといっしょにいるうち、
すっかりわだかまりがとけていってしまった。
おつるは本当に気立てがよく、はたらきもので、裏表もない性格じゃった。
それでも武三は、やはりあのときのことが気がかりじゃった。
(どうやら、おらを化かそうとしてたわけじゃないようじゃ)
(それならなおのこと、なぜあんなまねをしたんじゃろうか)
武三はおつるに何度か、それとなくたずねてみた。
でもおつるは、にこにこと笑ってはぐらかすだけじゃった。
そしてそういう晩は決まって、おつるは自分から武三のねどこにもぐりこみ、
武三がわけがわからなくなるまでも、わけがわからなくなってからも、
夜が明けて日が高くなるまで、ずーっとたわむれつづけるのじゃった。
”あたし、あんたのものがいい”
”あたし、あんたのものがいい ―”
武三はしゃかりきになって、山をかけまわり、畑をたがやした。
おつるにちょっとでもいい目を見せよう、いいところをみせようとやっきになった。
おつるはそんな武三のことを、かいがいしくささえておった。
そしておつるが住みこんでちょうど一か月になろうかというころ。
武三は珍しく里に下りていた。
味噌に塩に米、ほかにも必要なものはいろいろある。
おつるがなめしてくれた毛皮は飛ぶように売れた。
そして、そのお金でいろいろと買いものをすませた。
用を済ませた武三は、山へ戻ったのじゃが・・・
ざ あ あ あ あ ーーー・・・
山道を半ばまで登ったところでにわかに空がかき曇り、
たちまち雨風がざあざあごおごおとふりかかってきた。
雨風はますます強くなり、たちまち秋の嵐となった。
ご お お お お ーーー・・・
山ずまいの武三もこれにはたまらず、目についた洞窟に飛びこんだ。
背中の荷を下ろし手の荷物を置き、なんとかかんとか一息ついた。
雨風はどうにかしのげそうじゃったが、夜になっても空は荒れ狂うばかりじゃった。
ざ あ あ あ あ ・・・ ご お お お お ・・・
もう今が夜ともいつとも知れぬなか。
疲れはてた武三は丸まって横になりながらふるえておった。
火をともすこともできず、冷えたからだでは眠りにつくこともできない。
そのとき ―
「失礼、いたします」
ふいに、若いおなごの声がした。
ぱっと飛び起きた武三の目の前に、笠をかぶった三人のおなごが座っていた。
「おどろかせて、すみませぬ」
「この雨では、からだが流されてしまいそうでした」
「どうかわたしたちも、ここにおらせてくださいませ」
おつるとくらしてきた武三には、この三人もきのこの精であることが一目でわかった。
三人は順々に笠を取っていったが、笠などまるで役に立たんかったのじゃろう。
見るもあわれなほどずぶぬれになり、顔もまっさおになっておった。
三人の名前はしい、まつ、まいといって、このあたりに棲んでおるきのこだという。
三人は名を名乗ってから、さらにふかぶかと頭を下げ、武三に頼みこんだ。
その上品な顔と立ちいふるまいは、まるでお公家さまのむすめごのようじゃった。
「わたしたち、このままではこごえてしまいます」
「あなたさまにもうお相手がおらっしゃることは、わたしたちにはわかります」
「その上でお頼み申します。 どうかわたしたちに、ぬくもりと―」
「お情けを、ちょうだいできませぬか」
三人は武三の足元の地面にぺったりと伏して、そう頼みこんだ。
ぬくもりがほしいとは、すなわち着物を脱いで、肌をあわせてはもらえぬかということ。
お情けがほしいとは、すなわち武三の精を、からだの奥深くにそそいでもらえぬかということ。
「だめじゃ」
「・・・そこを、なんとか」
「人の、男の肌でなくては、もうだめなのです・・・」
「わずかでも、ぬくもりと、お情けをいただければ・・・」
三人の娘はくりかえし、武三にたのみこんだ。
歯の音をかちかちとならし、お願いしますお願いしますと頭を下げた。
「・・・情けは、やれん。 それだけはやれん」
「・・・それで、ようございます」
「武三さま、恩に着ます」
「このこと、けして、口にはいたしませぬ」
しい、まつ、まいはずぶぬれの着物を脱いだ。
そして武三のそばにあつまり、着ているものをするすると脱がせた。
「そいつを使え」
「よいのですか」
「しょうがない」
三人は武三の服を使って、からだの水をぬぐった。
武三は、銭と大事なものが入っている包みをまく
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録