ざざざ ざざざ ざざざ ざざざ。
ざざざ。 ざざざ。 ざざざ。 ざざざ。
夜深く静まり返った里に、多数の足音が響きはじめる。
足音の周りが、ぽっと明るくなる。
ざざざ ざざざ ざざざ ざざざ。
ざざざ。 ざざざ。 ざざざ。 ざざざ。
里を駆ける男たちはみな手に灯りを持っている。
御用。 御用。 御用。 御用。
御用提灯だ。
ざざざ ざざざ ざざざ ざざざ ー
足袋が道を踏みしめる音が夜の里路に響く。
足音を整然とそろえ、列を乱さず駆けていく。
男たちはみないちように、同じ指示を受けていた。
― 三姉妹のうち誰かが逃げ出したなら、追わなくても結構です。
どうせ本気で逃げられたら絶対に追いつけません。
行く場所は二つしかないでしょうから、追手を二手に分けます。
― 片一方は少人数で。軽装で結構です。
真っ先に勘介の家に向かいなさい。 声は立てぬように。
彼を押さえさえすれば、姉妹は手を出せないでしょうからね。
青い顔の同心からの指示。
いつものぶらぶらした調子でない、鋭い目つきと声。
― 勘介を押さえられなければ、そのまま谷へ。
十中八九、姉妹らとともにそこにいます。
いたならば、こちらに降れと命じなさい。
さもなくば里のものみなに累が及ぶと。
― 残り全員は、山へ向かいなさい。 あくまで静かに。
谷間向かって、三方から押しつつむように。
人の壁で谷を取り囲むのです。
ざざざ ざざざ ざざざ ざざざ 。
― 現れたのが人なら、そのまま押しつつんで召し取らえなさい。
魔物であれば手を出してはなりません。怪我人が増えるだけです。
おそらくその場に居るであろう、三姉妹たちに戦わせなさい。
― たとえ魔物が三姉妹の仲間であったとしても、
勘介を押さえさえすれば彼女らは逆らわないでしょう。
ただし風の力は使わせてはなりませんよ。
使われたら最後、何をされるかわかりませんからね。
― 彼女らが風の力を使った、勘介を見捨て魔物と手を組んだ、
逆に勘介が里を裏切った、そしてこちらに向けて牙をむいた。
その他、今まで申し上げたことでは手におえない事があったなら、呼子を吹きなさい。
姉妹にしろなんにしろ、魔物が関わることなら三度。 そうでないなら二度。
― 三度めの笛の音が聞こえたなら、奉行所にいるわたしがその場で早馬を出します。
そして与力殿とともにお目付役のもとへ駆けこみます。 すでに話は通してありますから。
くら さ
昏 い顔、冷めた声。
意気を上げるでも、せきたてるでもない。
とつとつ
ただ 訥 訥 と皆に命を下す。
― 相手が人だろうと魔物だろうと、この里でこれ以上の狼藉は許しません。
奉行所総出、必要とあらば公儀も巻きこみ、なんとしても片を付けるのです―
勘介が家にいないことを確認した一団は、その足でそのまま谷へと向かった。
そのころには多数の同心たちが、すでに山の半ばまで登っていた。
ざ ざ ざ ざ ざ ・・・
――――――――――――
「ソヨ!」
「カン、ちゃん・・・!」
倒れたソヨに、勘介が駆け寄った。
にじ
着物がずたずたに裂かれ、むき出しの地肌に血が 滲 んでいる。
「ごめんなさい、わたし・・・」
「いいんだ、これを着ろ」
裂かれた裾から白い太ももがのぞく。
その奥に真っ白いふくらみ。
さらに奥に、ひとすじの黒いくぼみ。
かわぎぬ
勘介は目をそらしながら、着こんでいた熊の 皮 衣 をばっとはぐってソヨにかぶせた。
「動くんじゃないぞ、伏せてるんだ」
「・・・ごめんね、カンちゃん・・・」
ソヨは勘介の熱がこもった皮衣をまとい、しっかりとくるまってその場で亀になった。
手のなかで小刀をしっかりと握りしめて。
普段は施術に使っている小刀だが、ただの小刀ではない。
風切りの太刀と同じく、権現さまにおさめられていた小刀だ。
普段から守り刀としていたそれは、風切りの太刀と同じく風を断つ。
かぜきり やいば
風 切 の 刃 。
無茶はするなと言われた。でも、姉たちを救いたい。
その想い一つで小刀を握りしめ、この谷へとやってきた。
風の力は使えなくとも、小刀を振るう分には沙汰にそむかぬはず。
下手人を捕らえさえすれば、沙汰もやむに違いない。
ぴ う う う う う う う う う っ !
待ち受けるソヨの前に、吹き
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