「なんでえ?! 結局あたしたちのせいだってのかよ!」
三姉妹の家に、ハヤテの素ッ頓狂な声が響く。
居間の真ん中に布団が二枚横並びに敷かれ、
その上に勘介がどっかと横たえられていた。
「おまえたちのせいじゃあない」
かまいたち
「でも、 鎌 鼬 のせいだって言ってんじゃねえか!」
「おまえたちとは違う鎌鼬のことだよ」
「はあ?」
勘介は包帯をソヨに巻きなおしてもらいながら答えた。
その横ではシマキが冷水にひたされた手ぬぐいをしぼっている。
「あたしたちじゃない鎌鼬? 別の魔物ってことか?」
「魔物娘じゃないほうの鎌鼬のことさ」
「え、えっ?」
はし
「山を 疾 る一陣の風。 それが振るう見えない刃 ―」
勘介の言葉を受け、シマキが続ける。
「人を音もなく斬りつけ、血を吸い肉をはみ、姿なく去っていく。
この山に古くから言い伝えられてきた話」
シマキは淡々と話す。 宮司に代わり神事に就くときのように。
いづな のぶすま かざかま
「鎌鼬、 飯 綱 、 野 衾、 風 鎌。 いろいろな名で呼ばれてきたものです」
「聞いたことはある。 権現さまも、見えない刃を振るうというな」
シマキはふっと顔を伏せ、勘介に答えた。
「その通りです。山を荒らすものに、罰を下すために振るう刃だと」
・ ・ ・
「その正体が、そいつってことか」
ハヤテは勘介の枕元に置いてあるものを指していった。
懐紙の上に置かれ、きらきら光っているもの。
薄く削げ剥げた、無数の水晶の欠片。 金属片。
水晶はもちろん、金属片でさえ向こうが透けるかと思えるほど薄い。
勘介の傷口から取り出されたものだ。
「そうだ。 山に吹く風がそいつらを巻きあげ、吹きつけてたんだ」
「このお山はむかしっから、水晶が採れてたもんね」
「水晶を掘れば山が荒れ、欠片が散って、風に飛ぶか。 理屈は通ってんな」
ハヤテは紙の上のかけらを拾い上げ、しげしげと眺めた。
勘介の体から出てきた無数の破片。
そして金属片の中に、夜を徹して谷間を探していたハヤテが見つけ出した
谷間に打ち捨てられた欠けた鏨とぴたり一致するものが出てきた。
それが決定打となり、三姉妹は赦免とあいなったのである。
「土砂をとるために切り出した谷間。 狭い岩間のあいだを風が吹き抜け、音を鳴らす」
それが、あの怪鳥の啼き声。
「そうして速さを増した風が、谷間の中で渦を巻くっていう寸法さ」
それが刃を巻きあげた風。
「それが連中が放り捨ててたくずを巻きあげてたってんだろ? ふざけやがって!」
水晶を掘った後に出るくず石、金具の破片。 それが見えない刃の正体。
坑夫たちはそれらを土砂を掘りとったあの谷に、
届け出もせず土もかぶせずまとめて投げ捨てていたのである。
「なんか変だと思ってたんだよ、姉さんもそう言ってたろ?」
「ええ」
― あの、同心さま。 お聞きしたいことが。
― なんでしょう。
― なぜ斬られた者たちは、あのような刻に、あのような場所にいたのですか?
― ・・・わたしのあずかりしらぬことですよ。
「とっくのとうに道はならし終わってたんだ。
土砂がいるとしても、あんな夜更けにくることなんてねえんだ」
「親方の命でもって、人目を忍んでこっそりと捨てていたようだな。
山や里から集められた連中は、悪いことだと知らされてなかったようだが」
「ご定法破りじゃねえか、くそったれ!!」
ハヤテは手にしたかけらをぺきりとへし折った。
「その親方はどうなったんだよ! 百叩きくらいにはなったんだろうな?!
あの青びょうたんだって知ってやがったんだろ?!」
「親方は百叩きの上所払いになったぞ。 どっちも銭を収めて免除されたが」
「はあ? ワイロかよ?!」
「ご定法のうちさ」
親方はさすがに表立って鉱場にでることはなくなったが、
いまでもひっそりと裏方の仕事を行っている。
「同心さまは知らぬ存ぜぬの一点張り。 証拠も出ずおとがめなしさ」
「なんだよそりゃあ?! あいつが黒幕じゃねえのか!
ご定法破りの罪をあたしらにおっかぶせようとでもしたんじゃねえのかよ!」
「親方たちがそう証言したんだよ。 同心は関わってないって。
あの堅物は袖の下ひとつ受け取ってないってさ」
「あの堅物ぅ? ・・・あいつ、堅物なのかよ」
「堅物ではあるだろうな。 石頭ではないだろうが」
包帯を替えてもらった勘介はどっかと横になり、天井をにらんだ。
天井板に張られた木目の数を数える。
「よくある話なんだ。 くずを捨てる前に届け出するのがご定法
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