・・・ぴぃぃぃぃぃぃぃ・・・
「・・・ひ!」
― ズ サ ッ !
ぴゅううううううううう!
「ま、また出たああああ!」
― ゾ ブ ッ!!
――――――
「それでは、沙汰は以上になりますよ」
「だから、あたしらのせいじゃないっつっただろ・・・」
またハヤテと青い顔の同心が言い争っている。
今度は風の吹きぬける地上、奉行所の一角。
あれから一週間。
例の切り裂き魔は二度にわたり、また同じ場所同じ刻に現れた。
見えぬ刃に切り裂かれた傷はいずれも浅手だったが、
その傷は血にまみれ坑夫たちをおびえさせた。
「それはわかりましたってば。だからちゃんと明るいところに移したじゃないですか」
「座敷牢だろ。それに夜はまたあの岩屋に行けってんだろ?」
かまいたち
「あなたがたではないにせよ、 鎌 鼬 のしわざではないと決まったわけではないですから。
あなたたちのお仲間、お友達のしわざじゃないとはねっ」
・
最後のねの声を、顎をしゃくりあげて放り出す。
しゃく さわ
この鼻にかかった声のあげ方がいちいち 癪 に 障 る。
はす
ハヤテは 斜 に睨んで言い返した。
「そんな友達なんかいやしないよ。
だいたい、おれたちゃ人を殺したどころか傷付けたことさえないんだぜ?」
「・・・は?」
「着たりつけたりしてるものくらいは斬るけどよ」
「今の魔王になってからは、でしょう」
同心が片眉を吊り上げた。声の調子が深く沈む。
いきなり変わった声音に、勝ち気なハヤテが一瞬息をのむ。
「・・・おれたちが産まれる前の、よその国の、違う種族の話だよ」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「 いま、ここで、 あなたたちは殺していない。
だから大丈夫だろうとでも言いたいのですか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「古文書に残っている。 絵巻にもなっている。
そしてあなたたちは、いまなお人を超える力を持っている。
何の力もない人間なら、思うがままにしてしまえる力を」
なんのあおりもおさえもない、ただ息を吸ってはくような声。
その威も意も何もない声に、ハヤテは飲まれた。
「― これはただ、それだけの話なんです」
「その通りです」
静かな声が割って入る。
白面の女性が目を伏せていた。
「かつてわたしたちが人と殺しあっていたのは、曲げられぬ事実」
「・・・姉さん」
「風の通るところにおいていただいただけでも、
たいへんな温情だとこころえねばなりません」
その言葉を耳にし、同心の険がゆるんだ。
いつものぶらぶらした調子が戻る。
「おわかりになっていただければいいんです。
ただ当然ですけど、さきほど申し上げた通り・・・」
「風の力は使うな、だろ? わかってるよ」
鎌鼬である彼女らは「風となる」ことができる。
一陣の烈風にも、すずやかな微風にも。
そうなっては、とても人の眼にも手にもとらえられない。
「使ったらすぐでも奉行所から公儀へと伝わると覚悟してくださいね。
あなたたちの妹もお友達も、この里だってただではすみませんよ」
「・・・・・・・・・・」
せめて舌打ちの一つでもしてやりたかったが、口がぴくとも動かせなかった。
シマキが伏し目で、こちらを見つめている。
同心はいつもの調子で、肩をいからせぶらんぶらんと出ていった。
「ハヤテ」
「・・・ごめん、姉さん」
ひとこと、名前を呼ばれただけだった。
けれどハヤテはその声に打たれ、顔を伏せた。
― 勘介さん、そしてこの里のかたがたといられることを
けして当たり前だと思ってはなりません。
えにし
それはほんとうに、ほんとうに、得難い 縁 なのです ―
ごう
― わたしたちは、 業 を背負っているのです。
そのことだけは、忘れてはなりませんよ ー
何度も聞いてきたはずのこと。
ハヤテは唇を噛んだ。
「シマキ、ハヤテ!」
息せききって、一人の男が駆けこんできた。
見知った顔、見知った声だ。
「ケガはないか! 具合は悪くないか?!」
「勘介さん」「勘介!」
シマキの伏せた目が上がる。
ハヤテの噛みしめた唇がほころぶ。
勘介。 庄屋の甥っ子、里の組頭。
三姉妹のおさななじみ。
「さあ、お望みのお友達をお連れしましたよ!
手短になさってくださいね!」
またあの鼻にかかった声だ。
どうやら威厳を出そうとすれ
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