魔物娘昔ばなし〜わかめ女房〜

むかしむかし、とある海辺に、ひとりの若者が住んでおった。

若者は名を茂平といった。

茂平は親を早くに失い、里の外れの岬の上でひとり暮らしておった。


茂平はうまれつきからだが弱く、漁には出られなんだ。

けれど真面目で働き者じゃった。


朝はいつも誰よりも朝早くから浜に出て

打ち上げられた魚や藻、流木やごみをせっせと拾い集めておった。

そうやって浜をきれいにし、食べ物やたきぎを得ておった。


昼間は朝採った魚や藻を売って歩いたり、

漁に使う網をなおしたり縄をなったりして

つつましく不自由なく暮らしておったと。





ある日、いつものように浜に出てもの拾いをしておったところ。



「もし」



まだ薄暗い浜辺で、だれかが茂平に声をかけた。

こんな朝早くからだれじゃと、くるくると顔を回してさがす。



「もし」



気づくといつのまにか、波打ち際にひとりのおなごが立っておった。

小柄じゃが細っこくて、背丈より高く見える。

結っていない長い髪がゆらゆらと肩の上でさざなみのようにゆれて、

それはそれはきれいじゃったと。



「おらのことを、呼んだだか」

「はい。 茂平さん、でしたか」

「いかにも、おらあが茂平じゃ」

「いつも、朝早くから、浜をきれいにしていただいて。

ほんとうにありがとうございます」



女は頭をぺこりと下げた。

髪がふわっと揺れて、いい匂いがするようじゃった。



「い、いや。 かえってだれかの邪魔になっとらんかと心配で」

「邪魔だなんて。 ほんとうに助かっております。

わたしにもなにか、お手伝いできませんか」

「手伝い、じゃと。 で、では、軽いものからお願いしますだ」



茂平はどぎまぎしながら、女の申し出を受けた。

もしや物の怪かとも思ったが、女は茂平に負けぬほど真面目で働き者じゃった。

浜辺をすいすいと歩きながら落ちているものをひょいひょいと拾い上げ、

あっという間にしょいかごいっぱいの藻を集めてしまったと。



「おお、助かるのう」

「いいえ。おうちまで持っていって、よいですか」

「ああ、よろしく頼みます」



女は藻でいっぱいのしょいかごをしょって、

流木を背負った茂平の背中を岬の上まで押していった。



「いや、助かった。 よかったら、朝ごはんでも食べていかんか」

「まあ、ありがとうございます。 なら、わたしにもお手伝いさせてください」

「そんなことまで、ええのか」

「ご馳走になるんですから、これくらいは。 お台所をお借りしてよいですか」

「いや、ありがたい」


茂平が表で魚を焼いていると、家の中からなんとも言えんいい香りがしてきた。

家に戻ってみると、ほかほかのご飯と汁ものが用意されておった。


「おおう、ええ匂いじゃ」


ごはんは米の一粒一粒がきちっと立って、しっかり甘く炊けておった。

汁ものはたいそう香ばしく、見たことのない藻が入っておった。

すすってみるとこれがまた、いままでに口にしたこともないようなおいしさじゃった。


「おお、これはうまいのう」

「茂平さんの焼いたお魚も美味しいですよ」

「いや、ごちそうさまじゃ」


女は名をアマメといった。

アマメは茂平が朝に浜辺に降りるたびそこにいて、

いつも拾いものや朝ごはんの準備を手伝ってくれるようになった。

一週間後、茂平は思い切ってこう頼んでみた。


「このまま、わしの家に、住んではもらえんか」


アマメはにっこりと笑って、はいとうなずいてくれた。

その晩茂平は、きれいな髪につつまれて、夢みごこちじゃったと。






それから茂平とアマメはふたりして暮らしておった。

お互いぜいたくを言わぬたちだったので暮らし向きに不自由はなかった。

だが茂平には、アマメのことでどうしても気になることがあった。


「ごめんなさい、茂平さん。 ちょっとだけ待ってて」


アマメはご飯を作ってる最中、どうしても台所の中にいれてくれん。

特に自慢の汁ものについては、なにひとつ教えようとはせんかった。

だしのことも、昆布でもひじきでもない具の藻のことも、なんにも教えてくれん。

たったそれだけのことじゃったが、茂平はそれがどうしても気になった。



ある日茂平は、あらかじめ壁にこっそり穴をあけ、アマメがいる台所をのぞいてみた。

アマメはこれから汁ものをつくるところのようで、鍋を抱え持っていた。



ご と ん 。



なんでかアマメはその鍋をかまどの上にではなく、床の上に置いた。

そして着物のすそを、がばとたくしあげて・・・



(なんじゃと?!)



アマメは腰まですそを上げ、床の鍋の上にかがみこんだ。

ほそい足とまあるい尻が
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