それから3週間後くらいの事だ。
皆が寝静まるはずの夜中。
宮殿の一室でうめき声を挙げていた女性が一人。
就寝したはずのクロシエはシーツの裾を握りしめながら苦しんでいた。
見ると体から汗が噴き出していて彼女のパジャマを濡らしていた。
別に彼女が病気や大怪我で苦しんでいた訳ではない。
体がうずいて、熱い。
口を開け、だらしなく舌を出している。
心にぽっかりと空いた穴を埋めたくて仕方がない程飢えていた。
色欲とも違う、物欲とも違う。
もっと単純明快なものだ。
それを埋められる人間はただ一人だけ。
「クロハッ・・・! クロ、ハッ・・・!」
何度も何度も彼の名を呼んでいる。
全く眠れる気がしない。
いや、彼の名を呼ぶごとに欲望が膨れ上がってきている。
彼が近くにいる時は安心するのに。
彼がいなくなった時は不安が、欲情が込み上げてくる。
それでも我慢しなければという自制心があったがもう限界だった。
―――あっ・・・・、あぐっ・・・・、ああっ・・・―――
ジルドハントも同じうめき声を挙げていた。
カタッ、カタッと自身を揺らしながら。
傍から見ればポルターガイストの類かと恐れる光景だった。
されどクロシエには関係ない。
そんな声を聞いたらクロシエはもう横になっていられなかった。
ベッドから起き上がったクロシエはショーケースを乱暴に開ける。
「貴方も、同じなのねっ! ジルドハントっ!」
―――は、恥ずかしながらっ! 私もっ、クロハ殿がっ―――
「それ以上っ! 言わなくてもっ! 分かるわっ! 私はっ!」
迷わずクロシエはジルドハントの柄を握った。
途端に黒い物体がその柄から噴き出してきる。
クロシエ自身も実感している。
これに包まれたら自分は人間ではなくなるのだろうと。
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コーヒーの一杯を飲み終えたクロハはコップを台所へと持っていき洗っていた。
「夜更かしし過ぎたな」
されど明日は休暇だったのだからここまで夜更かし出来たのだ。
ゆったりとした時間を堪能したクロハがこれから寝ようと戸締りし始めた時だった。
『ダンッ! ダンッ!』
家の玄関ドアを叩く音が聞こえた。
クロハは玄関のドアノブに手をかけると少しだけ開けて覗く。
いたのは一人の人間。
マントで全体を隠していたが顔を見れば分かる。
「クロシエ様!?」
思わずバンッ、と音を立ててドアを開けてしまった。
「お、お願いっ! クロハッ! 私をっ!」
何か苦しんでいる様だった。
顔が歪んで呼吸も荒い。
「一先ず、中へお入りください」
すぐに中へと招き入れて鍵を閉めた。
こんな時間帯で、しかもクロシエ一人なのだから余程緊急の事態なのだろうとクロハは思っていた。
「どうしましたか?」
「抱きしめっ、てっ!」
「え!?」
「お願っ、い!! 抱きっ、しめって!!」
苦痛に満ちた表情で懇願してきたのだから言われるがまま即座にクロハはクロシエを抱きしめた。
「はあ、はあ、はあ・・・」
クロシエの乱れていた呼吸が徐々に落ち着きを取り戻してきた。
「・・・落ち着きましたか?」
「・・・うん。落ち着いたけどこのままの方がいい」
クロシエがマントを外すと出てきたのは。
「その姿は・・・また・・・」
あの日ハトラルコの駐屯所で見た異端の姿。
右半分が黒い装甲に包まれて、右目が真っ赤に染まっていた。
細剣だったジルドハントは黒い物体で大剣へと肥大化していた。
そしてジルドハントとクロシエの右手が黒い物体によって結合し一体化していた。
その姿を二度も見る事になろうとは思ってもみなかった。
「・・・苦しいですか?」
「もう苦しくないわ。クロハが抱きしめてくれているから」
何故自分が抱きしめれば落ち着けるのだろうか。
確かに自分がクロシエにとって信頼出来る人なのは間違いないが肉親である母レイヤでは駄目なのだろうか。
彼女の抱擁が自分の抱擁よりも数倍効果がありそうなのに。
兎に角もう夜遅くだ。
夜道を歩いて宮殿へと送るのは危ない。
暴漢とかに襲われるという意味ではない、その外見とクロシエ自身の心だ。
ならばここに泊めるしかないだろう。
クロシエにベッドを使わせ、自分はソファー辺りで寝ようかと思っていたが。
「・・・一緒に寝ても、構わないかしら?」
それを聞いた時、体が飛び上がってしまいそうな程驚いた。
「な、なぜ!?」
「・・・駄目?」
「駄目というよりも、クロシエ様は女王なのですよ。一般人に過ぎない俺と一緒に寝るのは釣り合わないですよ」
『クロハ殿、私からもお願い致します!!』
「ジルドハント!?」
ジルドハントが急に会話へ割り込んできた。
『も、もうクロハ殿の抱擁なしでは、傍に居て
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