それから数日後の事だ。
「ハトラルコが和平を申し出てきた?」
まだ停戦状態だったが公務を再開し始めようとしたクロシエの自室にクロハがそう報告してきたのだから寝耳に水だった。
「はい。『クロシエ・テル・アルトン女王の勇ましき強さと慈悲深き優しさに我々は自らの過ちを認めると共に深く反省し謝罪の意味も込めて会話の場を設ける』、と」
願ってもやまない機会だ。
クロシエは初めのうちはこれで民衆を危険に晒さずに済むと考えていた。
ハトラルコ側が提案した具体的な講和条件に目を通せば本領安堵、賠償金の支払い、ハトラルコ側の永久的な領土侵入禁止とアルトンが戦勝国であるかの様な条件だった。
ただ一つ講和の席に行くのは自身とお付きの人間一人だけ、というのを除いて。
「クロシエ様、どう思いますか?」
あくまでも彼は判断を仰ぐ立場だった。
―――これは罠だと思われます。クロシエ様、受け入れるのは早々かと―――
ショーケースに飾られているジルドハントは即座に進言してくる。
クロシエも罠である事は考えてはいた。
だがここで条件を飲み込めば、これ以上民衆を苦しめなくて済むという気持ちが強かった。
もし拒絶して戦争を続ければ、いくらジルドハントの力があったとしても民衆は付いていけない。
ならば好条件が出されている状態で和平を結べばこれ以上の犠牲は抑えられる。
それに講和の場に立ってもいないで相手側を疑うのはクロシエの性に合わなかった。
相手を見て、話を聞いて判断するのがクロシエの流儀だ。
付け加えて万が一の事があったらクロハとジルドハントがいる。
二人に任せておけば大丈夫だ。
そう考えたクロシエは決断した。
「条件を飲みましょう。使者に了解すると伝えて」
「はっ」
クロハは不満の表情を見せずにただ頷く。
そしてクロハが出て行ったのを確認したクロシエはちらりとジルドハントを見る。
ジルドハントは何も言って来ない。
自分の意見を無視したから拗ねている、訳ではない。
クロシエの考えを読み取り、察したのだからそれ以上の進言をしていないだけなのだ。
「いざとなったら宜しくね。ジルドハント」
―――お任せを、クロシエ様―――
ジルドハントはいつもの凛とした口調で答えて見せた。
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講和の場はアルトンとハトラルコとの国境付近にあるハトラルコの駐屯所であった。
クロハは講和の場という事で場違いであろうと自身の武器である槍を置いていこうかと思ったが万が一に備えて携えていく事にした。
クロシエも同じ考えで腰にはジルドハントを携えていた。
共に馬を走らせ城門前で止まると。
「はっ! クロシエ女王並びにその従者様! お待ちしておりました、ただいま門を開門致しますので少々お待ちください!」
城門前にいた兵士が威勢よく返事をし、門を開門させた。
中へと入り馬から降りると兵士の一人がこちらへと駆けてくる。
「はっ! こちらへお願い致します!」
そう言い後ろを振り向き歩き出す。
二人は黙ってその後ろを追っていた。
兵士に案内されて歩くこと数分。
通された一室にいたのはまだ若いであろう男性一人と初老に差し掛かった男性の二人組だった。
「お初にお目にかかりますクロシエ女王。私の名はアレス・ジスタ。こちらはクルシス・ルドです。今回我々は王の代理として和平の交渉を承りました」
初老の男性、アレスはそう言い一礼した。
続けてクルシスという若い男性も一礼した後、クロシエが席に座ったと同時に口を開いた。
「では早速始めさせて戴きます。誠に勝手ながらこちらが提案した条件のさらに具体的な案の確認をお願い致します。無論条件の変更などがあれば対応致しますのでご安心を」
この時クロシエはまだ警戒していた。
講和の会議と名目しているが自室で聞いたあの戦勝国並みの要求をちゃんと約束してくれるのだろうかと危惧していたのだから。
だが実際に講和の会議が始まれば彼らは迅速かつこちらが了承する具体的な案を出してくる。
国境には絶対に兵士を近づけさせない、賠償金も適度な額、さらにハトラルコの鉄と銅の加工技術の一部提供と良識的な条件ばかりであった。
そして彼らは真剣な目つきと口調でこちらと対話している。
こちらの条件をほぼ承認しての条約書にクロシエがサインした時、クロシエは確信した。
彼らは信用できる人間である、と。
「これでもう国民を犠牲に出さずに済みます。ありがとうございます」
クロシエが思わず感謝の言葉を述べる程だった。
「それはこちらの台詞です、クロシエ女王。我々は確かに反魔物派ですが人としての道理はあります。これ以上長引かせるのは両国を疲弊し続けるだけですので」
「クロシエ女王。我々
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