夫婦と人形達の非日常

雪が解けて緑が生い茂るようになった季節。
夜になればまだ寒いが昼間はコート無しでも問題ない程暖かい。
リスや小鳥などの小動物はこの暖かさを喜んで迎え入れ、狐の親子は若草が生える草原の上でじゃれ合っている。
生きとし生けるもの全てが春の訪れをひしひしと感じている。
そして一匹の青い小鳥が樹木で羽休めをしていた。
ふと、小鳥はその両目をある方向へと向けると。
一際大きい屋敷が目についた。
高貴な貴族とかが住んでいる派手な屋敷、とは違うがそれでも立派な屋敷だ。
きちんと最低限の装飾とかはされているし掃除も行き届いているから寂れた印象はしない。
そして雑草など一つも生えていない整った庭。
花壇を見れば小さなつぼみがちらほらと。
どうやら腕利きの庭師とかでも雇っているのだろう。
一通り屋敷の外装を鑑賞した後、また小鳥は眼を窓ガラスの方へと向ける。
まず一階の窓ガラスを見ると執事姿をした人間が内側から窓ガラスを拭いていた。
紫色のポニーテールを後頭部からぶら下げていたのだから一見すれば女なのかと思ったが体つきは男性のそれだった。
丁寧に、丁寧に、ゆっくりと雑巾で拭いていた。
そして二階の窓ガラスに目をやる。
丁度、何かが通り過ぎて行った。
小鳥はすぐさま次の窓ガラスに目を向けて対象が来るのを待った。
今度ははっきりと捉えた。
それは男性でまだ歳若い青年だ。
くせ毛のある青い髪が印象的だった。
服装は執事の姿をしていなかった。
とてもラフな格好だったのだから館に来たお客さんか、もしくは館の主なのだろうと思った。
さらに見ると水をすくったかの様に彼は両手でお椀型を作り上げていた。
その中身は布、しかし中央少しだけ膨らんでいたので何かを包んでいたのだと分かる。
どうやらこの男はその布に包んだ何かを持っていこうとしているのだろう。


「おーい! メイコさんー!! 何処にいるんですかー?」

やや声を大きくして叫んでいた。
この屋敷の中で人を探しているようだ。

「何ですかカイトさん。私に御用があるのですか?」

彼の行く先に立ちはだかる様に立っていたのは女性だった。
青髪の彼よりもずっと若い。
歳はおそらく14歳か、15歳程度。
メイド服を着ていたのだからこの屋敷の使用人なのだろう。
腰まで届く緑のツインテールが印象的だった。

「ああ、ミンクさん。メイコさんは何処にいるんですか?」
「何を言っているのですか? 『私』はここにいますよ?」

窓越しではあったが表情は伺える。
さも当然の様に呟いている彼女の姿が。
話の流れからすれば彼女の名前は『ミンク』というのに彼女は自分が『メイコ』だと主張しているのだ。
名前を2種類持っているのか?
彼もその反応に首を傾げ困る素振りを見せ、どう返せばいいのか分からなかった様だ。
だが彼は何かに気づいたかの様な表情を見せると。

「いや、『本体』の方は何処ですか?」

すると彼女は納得した表情を見せ、口を開く。

「それでしたら私の部屋ですよ」

分かった、と呟くと男性は屋敷内の階段を駆け上がっていく。
そしてメイドの彼女もまた彼に一礼してからその場を去っていく。
違和感が否めない会話だった。
メイドの名はミンクであるのに自分はメイコだと言い張るのはどういう事なのか。
カイトという男性が言った『本体』とはどういう事なのか。
だがもう小鳥には関係ない事だ。
すっかり興味を無くした小鳥は休めていた羽を動かしその場から去っていた。




#9826;
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階段を一段ずつ飛ばして駆け上がっていき、廊下の角を曲がれば彼女の部屋だった。
そこでふと立ち止まる。
もう目と鼻の先だというのに立ち止まった訳は若干の不安があったからだ。

「どう評価してくれるかな?」

独り言を呟きながらカイトは目線を布へと落とす。
別に彼女は自分の師匠でも、先生でもないのだが自分の尊敬する師の娘であるのだから多少の緊張もする。
意を決し、カイトは扉を2回ノックした。


『どうぞ』


扉越しから許可の声が出たのでドアノブに手をかけて回し、開ける。
出迎えたのは年頃の女性。
清楚さという言葉を体現したかのような女性特有の体つきで短めの茶髪、顔たちも整っており確実に美人の部類に入るだろう。
最も彼女が『人間』であれば、の話だが。

「カイトさん、わざわざこちらまで来て。でもどうしてですか? あの時私に言えば良かったのでは?」
「いや、どうしてもメイコさんに会いたくて。例えメイコさんがミンクさんを操っていた、としても僕はどうしても慣れなくて」
「それほどまで私に会いたかったのですね。嬉しいですよ、カイトさん」

そう言い笑みを見せた彼女は本当に嬉しそうだった。

「ですけど別
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