愛は不変で偉大なもの

人間の命は魔物娘達と比べて短く、それでいて口から火を吐き、爪で壁などを打ち砕く事など到底出来ないのだから脆弱な生き物だと中にはそう唱える魔物娘達がいる。
されど中には脆弱と分かっていながらも人間を愛し共に生きようとする魔物娘もいる。
美しい愛の形であるがどんな愛にも終わりが来るものであり男女のすれ違いやの突然の事故など原因は様々であるが中でもこれだけはどうしても割り切れないのだ。
それは死、だ。
命あるも寿命があり受け入れなければならない辛い現実だ。
ここにいる二人もまたその現実を受け入れようとしていた。


深夜。
ある病院の一室にてまた一つの命が消えかけようとする。


「・・・・もう、駄目なのか」


「分かりきった事を・・・言うな。私はもう・・・覚悟している」


弱った体で息を切らしながら答える女に男は涙目になっていた。
女は人間ではない。
腕は強靭な鱗で覆われ、頭からは二対の角が生えている。
背中には今は折りたたんで見えないが翼が二対。
彼女は『ドラゴン』と呼ばれる魔物娘であり陸上においては敵なしと謳われる最強の生物だ。
しかし今の彼女はその面影など微塵もない。
顔色は悪く、何度も苦しそうに呼吸を繰り返す姿は彼女が地上最強の種族であるなど誰も思わないだろう。
結婚を承諾してくれたあの日から何度も知らされていた事実。
受け入れていたつもりだった。
分かっていたつもりだった。
けれど男は納得出来るはずがないのだ。
最愛の、妻の死を見届ける事など。




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出会いは約5年ぐらい前だった。
彼ことヒビキ・ソウシは当ても知らない旅の者だった。
気ままに国を渡り歩いて興味が沸いたらそこに数日泊まり、路銀が無くなったら適当な日雇いの仕事を見つけて稼ぐという生活を1年ぐらい前から続けていた。
その道中においてドラゴン属が治めているという国を訪れた。
単に物見ぐらいの気持ちで珍しいものはないかという好奇心からでありいつもの通り数日したらここから離れるつもりだった。
だが運命の日は訪れた。
滞在して3日目、ヒビキはその国でも有数の公園を訪れようとした。
有数といっても珍しい物はなく至って普通の遊具と噴水があるぐらいの何処にでもあるような公園だった。
適当にそこら辺をぶらぶらしていると目に止まった。
多種の花に囲まれて公園のベンチに座っている美しい女性の姿が。
外見で分かる、彼女は人間ではなく『ドラゴン』と呼ばれる魔物娘だ。
別にここがドラゴンの国だからその同類がいるのは何ら可笑しい話ではないのだが彼にとって彼女は他の魔物娘とは違う雰囲気を感じ取った。
流れるような長い紅蓮色の髪、美人の部類に確実に入るような整った顔、女性として無駄な贅肉などない引き締まった体。
どれもが女性として十分な基準を満たしていた。
そして彼が彼女に一目ぼれをするのに十分だった事も。
心臓の鼓動が早く、緊張が解けない。
その気持ちが何なのか彼は知っていた。
ならばこの気持ちが冷めない内にやらなければ。
すぐに彼女に近づいた。
見れば見れるほど惚れてしまいそうな美貌と容姿だった。
視線に気が付いた彼女はこちらに振り向いた。
彼はそこで膝をついて申し出た。

『好きです!! 俺と付き合ってください!!』
『断る』

わずか1秒だった。
冷静に考えればあって数秒で他人から付き合えなどと告白されても困惑するし、拒絶もするのもごく当たり前の反応なのだが今の彼にはその考えが至らない。
恋は盲目という言葉があるように彼もまた頭の中で拒絶されるなどという未来など見えていなかったのだ。
けれど冷たい現実を突き付けられた事で冷静さも思考力も取り戻しなぜ自分が拒絶されたのかを考え始めた。
恐らく考えられるのは自分が職なしのろくでなしだと思われているのか、もしやもっと別の理由があるのか。
たまらず彼女に問いかけてみた。
 
『た、確かに俺は職に就いてない風来坊だけど君の為なら職を探す。まさか既に誰かと付き合っているのか?』
『いや、男はいない』

その台詞でヒビキは安心できた。
仮に恋人とかがいれば今日の夜は一人でやけ食いしそうな程落ち込んでしまうだろう。
だが疑問はまだ残る。

『だったら何故なんだ?』

彼女は答えない。
沈黙が数分流れた後、彼女は口を開けた。


『・・・帰る』


それだけ言い残して彼女は翼を広げて飛び去って行った。
呆気に取られた彼だがここで諦めるという気持ちはなかった。
今でも聞こえてくる心臓の鼓動は間違いなく彼女のせいなのだ。
ここで諦めては後悔が残る。
まだチャンスはあるのだから待つ事にした。



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