ジパングの雪国に『氷月(ひょうげつ)の里』という里があった。
その里は周辺の里よりも人が多く、そして新魔物派として雪国の魔物達を快く受け入れていた。
今では仲睦まじい魔物の夫婦も見られ、その娘である魔物の子を見る事も珍しくなかった。
そして里から少し離れた場所に大きな山があった。
真っ白に染まった斜面に、雪化粧をした木々が幻想的な雰囲気を演出していた。
そんな雪化粧をした山の中、雪跡を残しながら歩く青年がいた。
彼の名は冬水(ふゆみず)という。
少し臆病でほんの少しだけ泣き虫ながらも、思いやりを持った優しい若者だ。
そんな彼は今、風呂敷で包んだ荷物を背負ってふうふう、と疲れ気味な息を吐きながら歩いていた。
「えっと、もうすぐ着くよね・・・?」
そう言い冬水は辺りを見渡した。
冬水が今いるのは雪が積もった山の中。
登るも降りるのも一苦労で、吹雪が起これば遭難して生き倒れもありえる。
そんな危険な場所に冬水が来る目的はただ一つ、彼女に会う為だ。
「あった・・・」
冬水は一軒の家を見つけた。
その家は質素で積もった雪が自然と落ちる様に角度の付いた屋根に、木の板と粘土で組み合わさった壁。
氷月の里でもよく見られるごく普通の家だ。
だがここに住んでいる者は普通の者ではないのを冬水は知っていた。
家の玄関、その戸板の前に立った冬水はそこで一つ咳払いをした。
「雪華(せっか)さ〜ん、来ました」
冬水の声と同時に玄関の戸板が開いた。
中から出てきたのは一人の女だった。
氷の様に冷たそうな青白い肌。
銀色の長い髪を頭の後頭部に纏めていて、はだけた和服からは乳房が今にも零れそうで、むっちりとした太ももが目を引く。
だが一番目を引くのはその体の至る所から氷柱が生えていた事だ。
髪の毛や両肩、太ももの付け根辺りから鋭い氷柱が見えていた。
もしあの氷柱に触れたら冷たいだろうな、と冬水は思っていた。
「・・・どうも」
ぼそぼそとした声で彼女は挨拶をした。
顔を合わせるのが苦手なのか、目線を冬水から少しだけそらしていた。
そんな彼女の名は雪華(せっか)。
『氷柱女』という魔物娘で見ての通り内気な彼女だ。
そんな彼女と冬水が出会ったのは2週間前に遡る。
冬水がこの山を越えた先の村に用があり、それを済ませた帰り道、大きなそりを縄で引っ張る雪華と偶然にも出くわしたのだ。
雪華が縄で引っ張っていたそりは大人2人が横たわれる程の大きな物で、積んであったのは棚や机に着物といった生活必需品だった。
もしや引っ越しの途中かと思った冬水はただの親切心と、魔物に対して友好的だった事も加わって彼女を助けようと話しかけた。
『その、こんにちは・・・・・。もしかして引っ越しの際中ですか?』
『・・・ええ』
その時の雪華は目を見開いて驚いた様子だったのを冬水は覚えている。
初めて会ったのだからそれは無理もない事だった。
『重そうですよね。・・・・・手伝います』
『え・・・・?』
『いや、そんな重い荷物を引っ張っていては大変かなって・・・』
そう言い冬水は照れくさそうに髪の毛を掻いていた。
今思えばこんな親切を真に受けるなんて人はいないだろう。
逆に怪しすぎて断られるのかな、と冬水は思っていたが雪華は違った。
『・・・うん、お願い・・・』
『はい、分かりました。では引きましょう』
『・・・ええ・・・・』
こっくりと首を縦に振った雪華に、冬水はちょっと嬉しくなった。
それから雪華は縄で引っ張り、冬水はそりの後ろを押しながら一緒に雪華が今住む家までそりを運んだ。
荷物を降ろしますね、と冬水は申し出て雪華と共に家具を家の中へと運び、そして全て運び入れてひと段落付いた所で、雪華が冬水に声をかけた。
『その・・・ありがとう・・・ね。・・・・ここまで・・・やって・・・くれて・・・』
『いえいえ、僕のおせっかいですから・・・。もしかして、一人で住むんですか?』
『・・・うん・・・一人で平気だから・・・』
雪華はそう言うがいくら魔物娘とはいえ、女性が一人でこの山に住むなど危ないだろう。
それに生活必需品があっても山の中では不便だろう。
そう考えた冬水は雪華に対し、こう申し出た。
『・・・・あの・・・。そしたら、僕が手伝います・・・』
『え?』
『・・・僕が、手伝います。もし用があれば僕の出来る範囲で手伝います・・・何でもとは出来ませんが・・・』
『・・・・いいの?』
雪華は恐る恐る冬水に問いかけてきた。
それに対して冬水は問題ないと言わんばかりに、首を大きく縦に振った。
『はい。だって、大変じゃないですか? 僕は、役に立ちたいと言いましょうか・・・』
『・・・うん、ありがとう・・・
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