貴族達の住む屋敷はいつ見ても豪華だ。
特にこの町において一番の権力者、『ラルカバーズ』家の屋敷は他の屋敷よりも一際豪華だった。
その屋根には本物の金が使われた鶏の飾りが幾つもあって、六角形の紋章が刻まれた門に毎日磨かれている屋敷の窓らは眩い光を放ち、レンガとセメントを折り合わせ建造された屋敷は貴族としての流儀だ。
加えてその広大な敷地には森林や花園があり、一般人は元より他の貴族から見ればまさに理想の豪邸だった。
そんな豪邸の一室、骨董品が置かれている展示室にてそれは巻き起こっていた。
「エルフィア様〜〜!! それはお父様が大切にしている壺なのですよ!! どうかお離しを!!」
非常に切羽詰まった、というよりは絶叫にも似た声を挙げながら男は少女をなだめようとしていた。
というのも彼が迂闊に出れば、少女の持っている壺が割れそうだったからだ。
「べ〜だっ!! こんな薄汚い壺になんの価値あるっての!!」
そう言い少女は壺の入れ口を手で掴み、その薄汚い壺を振り回していた。
その少女はまだまだ幼く、歳に換算すれば11、12歳程度。
紫色のショートヘアーにその瞳は藍色。
そして見ての通り生意気で悪戯癖のある性格であった。
まだ分別の付かない少女であるからだろうか、兎に角こんな事をしでかすのだから使用人達にとっては溜まったものではない。
だがこちらが彼女を躾ける事など出来ないし、そもそも彼女には使用人を従える程の『力』があるのだから下手な事を言えないのだ。
だから使用人である男はこうして言葉で頼るしかないのだ。
「や〜い、バアル〜!! これが大事なら取って見なさいよぉ〜〜!!」
少女は勢いよく、持っていた壺を宙へと放り投げた。
「っ!!」
すぐに男こと、バアルは壺目掛けて飛び上がり、その手で壺を掴もうと腕を伸ばした。
床へと落ちる寸前、バアルはその手で壺を掴む事が出来た。
そのまま壺を胸元へと抱え込むと、バアルは安堵の息を吐いた。
「ふうっ・・・」
本当に寿命が縮まるかと思った、とバアルは壺が割れなかった事に心底安心していた。
「ちぇ〜、つまんない。どうせならそのまま割れちゃっても良かったのに」
面白くないと言わんばかりの表情を浮かべながら少女こと、エルフィアは呟いた。
それも凄く軽い口調で事の重さをまるで理解していないかの様に。
この態度にバアルは思わず口を荒げた。
「それは困ります!! これは貴方のお父様が大事にしているものですよ!! この壺が割れたとなれば・!」
「割れたらバアルがクビって事になるんでしょ? それは分かってるもの。だからエルフィアやったんだもの〜」
自分のやった事に悪びれもせずエルフィアは笑いながら告げてきた。
「わざとやったのですか!? こんな事をしてただで済むとでも・!」
「あら? エルフィアに文句言うの? バアル、いつからエルフィアに偉く言える立場になったの?」
歪んだ笑みを浮かばせながらエルフィアは挑発的な台詞をかけてきた。
それに対しバアルには返す言葉がなかった。
「バアル、分かる? エルフィアには力があるの。お父様やお母様に頼らなくてもエルフィアには魔術の才能もあるし、名前もあるの。だから貴方が逆らったら困るのは貴方でしょ〜?」
エルフィアは勝ち誇った様な歪んだ笑みを浮かべていた。
その姿はまるで小さな暴君者だ、と心の中でバアルは呟いた。
確かにエルフィアの言う通り、エルフィアには『力』がある。
癒しの魔術師(ヒーリング・マジシャン)という異名を持つ名家、『ラルカバーズ』家の血筋を引く者。
その幼さで習得するのが難しいとされている上級魔法を幾つも操れるという天性の才。
それがエルフィアの持つ『力』だ。
そんな実力も名誉もあるエルフィアの前に、一介の使用人であるバアルは何も言えないのだ。
「っ・・・!!」
歯ぎしりをしながらバアルは口を閉ざしていた。
「そうそう、大人しくエルフィアに従っていれば良いの。別に貴方に貴方をいたぶろうなんて事はしないし。ただの遊び相手になって・」
そうエルフィアが告げようとした時。
「エルフィア、それぐらいにして・・・」
エルフィアとは違う、また別の声が聞こえた。
バアルが後ろを振り向くと扉の近くで立っていたのは幼い少女だった。
エルフィアと同じ年頃で、エルフィアと同じ紫色のショートヘアーに藍色の瞳を持っていた。
まるでエルフィアと瓜二つみたいな容姿だった。
ただその顔の筋肉はエルフィアと比べて硬く、笑顔を見せられそうにない顔だった。
「何よ、エルヴィア。こんな遊び相手にもならない奴を庇う
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