前編

とある地方に存在する反魔物主義国家、アメジスト国。
その特徴と言えば華やかな城下町と一際目立つ大きなお城だった。
城下町は道路の整備やごみの処理方法を徹底するなどによっていつも清潔に保たれていて、住みやすさは随一だ。
そしてお城は西洋とかでよく見られる真っ白な外壁で城門に見張り塔といった設備は勿論、中に入れば大臣らの居住や騎士隊の宿舎といった施設もあった。
これだけ立派な城と城下町があるのだから、そこに住む王はさぞ立派に国を治めているだろうと思われるが現状は違った。
城下町から北の外れ、そこにはスラムがあった。
スラムとは誰しもが想像できる通り、そこはゴミのたまり場で無法者達の寝床。
その為いつも鼻がひん曲がる様な異臭がするし、薄汚い目つきの無法者らが大勢いる。
大幅な改革にはじき出された事が原因か。
はたまた商業の流通を盛んにさせる為に通行書を一時的に無しとしてしまった事が原因か。兎に角このアメジストにスラムが出来てしまった事実に変わりはない。
勿論治安は最悪で、衛兵隊とスラムの住人達が揉めるのは日常茶飯事。
こんな危険な環境で生きていくためには二つ。
一人の場合は誰にも負けない圧倒的な力を持つ事。
またはグループを作って、外敵から守るかのどちらかだ。
それが暗黙の掟となっていた。



「っはあ・・・! っはあ・・・!!」



息を切らしながら走る男が一人。
歳は20歳前後。
その身なりはみすぼらしく、破れかけのシャツに穴が開いていた青いバンダナを頭に巻いていた。
そしてその両手にはボロ袋を握り、大事そうに抱えていた。


「おいあの男は何処に行った!!」


「ボヤに気取られ過ぎだか!!」


「クソッ!! ここは臭くてたまらんぞ!!」




男達の怒号が辺りに響く。
それを聞いた男はにんまりと笑みを浮かべていた。
男はがれきだらけの道を走り抜け、とある廃屋へと入っていく。
そこで待っていたのは彼の仲間達であった。
その数は二人で年齢は男と同じ20歳前後だった。


「よぉ。守備はどうだイシス?」


仲間の一人がそう尋ね、少し間を置いてから彼―――イシスはその口を開いた。


「バッチリだ。衛兵の奴らボヤ騒ぎに慌てて出動した隙をついて、ほら」

イシスが自身が手に入れた収穫物を見せびらかした。
ボロ袋の中には金貨が数枚、この額ならお菓子程度なら買える事だろう。
「流石コソ泥に関してはプロのイシスだな。素早さじゃお前に敵う奴はいねえな」
「おいおい、イシスの活躍の裏には俺の支えあってこそだろ。ボヤ騒ぎを起こしたのは俺なんだぜ。科学のプロ、フレイズの手柄も忘れないでくれ」
そう言いながら、自身の頭の髪を軽く撫でたのはフレイズ。
ひょろりとした体格で筋肉は余りついていない、如何にも文学系の男だった。
「何が科学のプロだ? ボヤを時間差で起きる細工をしただけだろ? あんなの教われば誰にも出来るぞ」
「だが調整をするのは誰にでも出来る事じゃない。量の調整と延焼時間、きっちり計算しとかなきゃただの爆発になってしまうからな。だからこうやってボヤ程度にとどめたんだから素直に感謝しろよ」
まあ確かにな、とイシスが呟いた。
「感謝はするぜ、ありがとさん。知恵袋はお前担当だからな」
「なに、当然の事だ。そんで、お前はあのボヤに紛れて何を手に入れたんだ。フラック?」
そう言いフレイズがフラックに向けて顔を向けた。
フラックはくせ毛があるセミロングの銀髪と狼の様な鋭い目つきを持っていた。
だが口元はにっこりと笑みを浮かべられそうな柔らかさだった。

「見て驚くなよ、これだぜ!」

フラックが自慢気に見せてきたのは、銀色の剣であった。
柄と鞘の装飾は質素であるが、鞘から抜けばキラリと刀身が光る。
しかも刀身は鏡の様にピカピカでイシスやフレイズの顔を映し出していた。
「これって本物の銀剣か? おほ〜〜!! これは中々の値打ちもんだぜ。何処で売るんだ?」
「いやこれは俺が使うぜ。切れ味は鋭いし、いざって時にこれ抜いて戦えるからな」
「なるほど。自衛の為か、それは良いな。ゴロツキの奴らを蹴散らすには打って付けだ」
そういうことだ、とフラックは付け加えた。
スラムにはルールというものは存在しない。
自分達の身は自分達で守る、それが当たり前の事なのだ。

「お〜い皆〜!! ご飯の準備、出来たよ〜!」

ニコニコと笑みを浮かべながらヘスティは駆け寄ってきた。
くりっとした両目に茶色の髪がトレードマークで、その体つきは13、4歳だった為か平坦で慎ましい。
ボロボロのシャツに短パンという服装、更に『僕』という一人称を使うのだから他人から見れば男だと思われる事だろう。
だがヘスティはれっきとした『女』である。
僕などと使うのは彼女本人の癖であるが、このスラムで
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