パープルなメイドさんにご用心を

平日の朝。
それは社会人が職場へと出勤する時間だ。
勿論ここにいる男もまた出勤しようとしているのだが・・・・。

「お手伝いさんが欲しいな〜・・・」

そう呟き、男は天井に向かって顔を仰いだ。
中肉中背でやや無精ひげを生やしていた彼の名は神代 仁乃(かみしろ じんの)。
今年で30歳になる、何処にでもいる普通の男だ。
そんな彼が今の現状に嘆いたのも無理はなかった。
サラリーマンの職に付いて取り合えず、真っ当な人生を送ってはいるのだが。
仁乃はリビングを見渡した。
何度も何度も辺りを見渡したが、目の前に広がっている景色が変わるはずもない。

「はあっ・・・」

思わずため息を付いた仁乃。
そう、自宅の中は最悪だったのだ。
あちこちに紙の束が散乱し、まだ捨てていないゴミ袋が数個程。
皿洗い場には洗っていない食器が山積みで、洗濯機のすぐ傍にはまだ洗濯していない衣服の山が。
言わばゴミ屋敷の一歩手前、と言うにはほど遠いが、兎に角悲惨な状態だった。
片づけたいという気持ちはあるのだが、いかんせん時間と後一歩のやる気が足りなかった。
ならばお手伝いを雇おうかと考えたが、そんなお金など何処にあるのだろうか。
「どうするかねぇ・・・・」
頭の髪を掻きむしりながら仁乃は途方に暮れていた。
今この瞬間にでも片づければ良いのだろうが、これから数分後にすぐ仕事だ。
ならばもうその暇はなかった。
「さて、と。仕事に行こうか」
仁乃はそのやる気ない足取りで職場へと向かおうとした。
部屋はその後に片づければ良いかという、すぐに忘れそうな決意を抱いて。

・・・結局、仁乃はそういう人間なのだ。
時間と後一歩のやる気が足りないなどと言い訳を作り、物事を後回しにしてしまう悪癖があるだけなのだ。
だからこそ彼にはお手伝い、もとい支えてくれる人が必要だった。
それも常に付き添ってくれる献身的なパートナーが。




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「お〜い、魔物娘のメイドさんって知ってるか?」
「あんっ?」
パソコンにデータを打ち込んでいた最中に、同僚にそう聞かれたから仁乃は変な声で返した。
「だからよ。魔物娘のメイドさんを知っているのかって聞いてんだよ」
「いや。魔物娘の事は知ってるけどよ・・・。メイドさんって?」
「今、巷で需要があるんだよ。御主人様の為に一生懸命働くって子達がいてな。給料とか要らねえ、欲しいのは御主人様の愛情だけだって言うから、そりゃもう人気者ってもんだよ。だからよ、俺明日その店に行って、メイドさんを一人紹介してもらおうって思うんだよ。お前も行くだろっ?」
「・・・まあ、な。興味は、あるな」
ぶっきらぼうで答えた仁乃だが内心は興味がありまくりだった。
メイド服を着た女性は、男から見れば注目の的。
そして願って止まない光景だ。
だから仁乃は想像した。

―――朝の目覚めと共に仕える主、もとい御主人様に一礼し『御主人様、朝食の用意が出来ました』と声をかける。

外出する時には『いってらっしゃいませ御主人様』とにこやかに見送って。

そして帰ってくれば『おかえりなさいませ、御主人様』と出迎えて夕食の用意をする―――

(うん、良いよなそれ・・・!!)

しかも払うべきお金もいらない、欲しいのは仕える主の愛情となれば、もう抑えきれない。
男だったら誰しもが憧れる主人とメイドの従順関係。
ならば一度は叶えてみるのも一興だ。
「あ、ああ。興味が湧いてきたな。俺も行くぜ」
「だろだろっ!! なら一緒にとびっきりの可愛い子ちゃん選ぼうぜっ!!」
同じ目的を持った男達は意気投合しやすいものだ。
ましてや、心はまだ健全男子な仁乃と同僚なれば尚更だった。
かくして二人は堅い約束をし、その日をワクワクしながら待った。




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翌日、仕事を終えた仁乃は同僚の彼と共に、そのメイドを紹介してくれるというお店に行ってみた。
時刻はもう夕暮れ時でオレンジ色となった太陽が二人を照らしていた。
また会社からそのまま直接向かっていたのだから服装はスーツ姿で、傍から見ればこれから飲みに行くかの様な装いだった。
路地裏をうろうろと歩き回り、やっとのこさ目的の店前にたどり着いた二人。
その店は雑居ビルの一階を借りていて、やや殺風景ながらもカラフルな電光で精一杯飾っていた店だった。
そしてその看板の名前は『萌え萌えメイドさん、ご奉仕するにゃん
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「・・・結構、痛えな」

こんな名前を考えた人は頭が桃色なのか、お花畑なのかのどちらかだろう。
だが、そんな痛々しい
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