――――僕は何故こんな所にいるのだろう?
吹雪で視界が妨害されるので片腕を盾代わりに目を守り、膝まで埋まるほどの雪が積もっている中で前進していた彼は心の中で呟いた。
何度も何度も自問してみたが出てくる答えは『遭難』という2文字しかない。
猛吹雪で目の前が見えないにも関わらずこの雪の中を歩いていたのは吹雪を凌げる洞穴はないか、小屋はないかと淡い希望を抱いていたからだ。
歩いている途中で少しばかり風が出てきたが大丈夫だろうという気持ちでいた。
加えて一年中雪に覆われいる中で育ってきたのだからこの程度は恐れるに足らないと、仮に強くなった所で防寒具も着ているし休憩する為の小屋が何ヶ所か設置されているのだから心配はないだろうと思っていたがそれが間違いだった。
その風は徐々に勢いを増していき今ではこんな猛吹雪だ。
視界が自分の体しか捉えられず先が見えない恐怖、体に叩き付ける雪の粒の痛さと足を引き離せばまとまり付く積もった雪の重さに体力だけでなく精神も擦り減りそうだった。
事の始まりはほんの些細なものであった。
村にいた薬剤師がこの薬草を取ってきてほしいと頼んできた。
その薬草は山の中で決まった場所でしか取れないので二十歳前後であるが小さい頃から山登りを経験してきた自分に白羽の矢が立ったのだ。
もちろん快く引き受け、道中で魔物娘に襲われ貞操を奪われないようにと村に滞在していた魔法使いが強力な魔物除けの結界を体にかけてもらい準備は万全だった。
それがこの結果になろうとは予想外だった。
だが後悔してもこの吹雪は止むこともない、だから歩くしかない。
死なない為にも生きる為にも歩くしかないのだ。
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もう歩いた時間は1日なのかと思える程だった。
厚手のコートと手袋に、頭にはニット帽を着ていた完璧の防寒対策なのに彼は寒さに身を震わせていた。
彼の体が震えていたのは周囲の寒さのせいだけではない。
心がまるで凍り付いたかのように寂しく、温かさに飢えていたのだ。
この心の氷を溶かすには他人が必要だった。
だからいつしか彼の目的は小屋ではなく洞穴でもなく人を見つける事に切り替わっていた。
誰でもいい。
異性でも同性でも。
この際魔物娘でも、自分の話し相手になってくれる人に出会えれればそれでいい。
だがこの猛吹雪で彼と同じ人が、彼を見つける確立など限りなく低い。
ならば魔物娘に会おうとしても魔物除けの結界を施していたのだから彼女たちは自分に寄ってこれない、まさに裏目に出てしまったと言わざる負えない。
歩いても歩いても目の前は白世界一色。
諦めの心が芽生えてくるとそれに釣られて体が動かなくなってきた。
思考も曖昧になり自分は食事をしたのか、自分は今どこを歩いているのかさえも分からなくなった。
そして次の一歩で雪に足元をすくわれ前へと倒れこむ。
手足が悴(かじか)んで頭にかかった雪を払う事が出来ない。
立ち上がるという簡単な動作さえ出来ない。
『考える』という事さえ分からなかった。
もはや彼の頭にはこんな言葉しか思い浮かべられなかった。
――――僕は、死ぬんだろうな・・・
やがてその時が来るのを待っているだけだと思っていた。
だから彼は頭を空っぽにしてただその場で倒れていた。
こうして何もせずじっと倒れていると何だか今まで目障りだった吹雪の音が心地よいものになっている。
これが死期を悟った時に感じる音なのか。
積もった雪が地面へと落ちる音。
時折紛れ込んでくる狼が遠吠えを挙げる声。
そして積もった雪の上を踏みながら歩いてくるような足音。
―――足音?
もう一度注意深く聞いてみる。
・・・確かに雪の上を踏んでいく様な足音だ。
思考が薄れていたが彼は反射的に顔を少しだけ挙げてみた。
視界に映ったのは女性だった。
ただの女性ではない、肌は氷のように青白く猛吹雪にも関わらず防寒着をまとっていない。
その服装はよく国の女王が身に着けている長いスリットスカートに細長い手袋、背中には氷の結晶を彷彿させる装飾に頭には冠、片手には杖を持っていた。
彼女は彼の目の前で止まると何もする事なく彼を見つめている。
ここまでくれば一目で人間ではないのは明白。
『魔物娘である』と分かった瞬間彼は立ち上がった。
これで助かったという思考はない。
今の彼は本能が体を、思考を支配していた。
脱げば寒いという当たり前の反応さえ無視し身にまとっていた防寒着を脱ぎ捨て彼女を押し倒した。
そのまま自分の唇を彼女の唇へと添える。
最初は軽く、そして徐々に舌を絡ませつつ口づけをする。
他人から見れば何故こんな事を仕出かすのか理解出来ないだろう。
だが今の彼は体だけでなく心までも凍り付き理性など機能
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