後編

そして深夜。
見張りの兵士は兎も角、大臣とかであれば眠っているはずの時間帯だ。
ドアを椅子や体当たりなど、およそ考えられる荒行全てを用いてドアごと破壊したアオマサはサキナの手を取りながら進んでいった。
勿論、サキナの手にはリベクサーが握られていた。
道中、監視の騎士らに見つかりそうになったが物陰に隠れ息を殺してかいくぐった
そんな事を繰り返しながら城内から抜け出し、人気がない門へとたどり着いた。
そこから出れば城の外へと行けて、この首都から抜け出せるのだ。
村への道は長い距離を歩く事になるが、苦ではないしこれでリベクサーが助かるのであれば全く問題ない。
そう思っていたからアオマサはサキナの手を取り、その一歩を踏み出そうとしていた。
だが。



「何処へ逃げると言うの?」



聞きなれた声だった。
その入り口前の茂みから現れたのはクロシエ、そしてその傍らにはクロハがいた。
クロシエらはアオマサ達の進路を遮る様に立ち尽くした。


「ハトラルコ王の命を無視して逃走するというの?」


その目はまるで罪を犯そうとしている者に対して向けられる、相手を非難するかの様な鋭い目だ。
だがアオマサはもう黙ってられなかった。
後ろには守るべきリベクサーがいる。
例えサキナを助けた恩人であろうとも、ここで抵抗しなければリベクサーは死ぬ。
そう思ったのだからアオマサは口を荒げ、クロシエに言い返した。

「・・・やっぱり納得出来ねえよっ!! 一度罪を犯したら裁かれるのは筋だけどよぉっ!! けど、けどそれで命まで奪うなんて事は俺は納得できねえよっ!!」
「貴方はハトラルコ王を、国全体を敵に回すというの? それがどれ程大変で困難なのか分かっているの?」

口調を崩さずアオマサを見定める様に問いかけてくるクロシエ。
相変わらずその目は鋭かった。
だがここで言わなければならない。
自身のリベクサーを救いたいという思いを、その台詞へと賭けて。


「何とかして見せる!! 絶対に何とかして見せる!! 俺は、リベクサーの為ならハトラルコの連中だって!! 俺がリベクサーを守って見せるっ!!」


全ての勇気を振り絞って訴えたアオマサ。
劇の主役だったらまさに主役の様に勇ましく、演技部門があれば高得点を記録できそうな台詞だ。 
アオマサのその勇ましい台詞を聞いたクロシエらは沈黙していた。
アオマサはてっきり、自分の決意に惚れて見逃してくれるのだろうと思っていた。
自分にあれほど優しく接してくれたのだから、もしかすると助け船を出してくれるかもしれない。
リベクサーの処刑について話したのは、そう演技するしかなかったのかも知れない。
そうだ、絶対にそうに違いない。
親魔物主義を掲げる国の女王がみすみすと魔物を見捨てるはずがないのだ。
だからアオマサは期待していた。
クロシエが自分達に助け船を出してくれる事に、そしてリベクサーを救ってくれる事に。
暫くの沈黙が続いた後、クロシエは動いた。

―――腰に身に着けていたジルドハントを鞘から抜刀したのだ。

それを抜いて何をするつもりだ、とアオマサが訪ねようとした時だ。


『ザシュッ!!』


急にクロシエはアオマサに向けてジルドハントを振り回し始めた。
その斬撃は腹部に向かってであり、寸前でアオマサは体を後退させて避けた。
だがクロシエの追撃は止まない。
左右からの斬撃に鋭い突き。
更には首元を狙おうとしていたのが丸わかりの太刀筋を繰り返したのだから、アオマサは本気で殺されるのかと思った。
そしてクロシエの斬撃にかわし切れなくなったアオマサは地面へと尻もちを付いてしまった。
そこでクロシエは口を開いた。

「それは優しさなんかじゃありません。・・・ただの我がままです」

非情とも言えるクロシエの冷たい言葉。

「貴方は・・・切り付けられ魔物と化したハトラルコの女性を考えてない。人切りの対処で傷を負って痛みを受けたハトラルコやアルトンの騎士達の事を、平和を脅かされ恐怖を送った人達の事を考えていない。その人達の事も考えず、口だけの立派な台詞を述べるなど片腹痛いわっ!!」 
「どうして分かってくれねえんだよっ!! 俺はリベクサーを助けたいだけなのにっ!!」
「何も分かっていないのは貴方の方よ!! 何も力も、具体的な解決方法も出さずに、ただ勇ましい台詞だけを吐けば相手は引き下がってくれると思い込んでいる貴方は愚か者としか言いようがないわっ!!」

『だけ』、という言葉を強調しながらクロシエはアオマサに対して怒りにも似た感情をぶちまけた。

「なら大人しくリベクサーから引き下がれって言うのかっ!! そんなの出来ねえよっ!! なあ、あんた女王様なんだろっ!!! だったら俺達を助けてくれよっ!! それともなんだっ!! 女王様なのにたった一
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