中編

リベクサーの指示した二日後の真夜中。
人気のないあの森の中で、クロシエは静かに佇んでいた。
その傍らには勿論、クロハとアオマサの姿が。
人切りのリベクサーと戦うというのに手勢を用意しなかったのは穏便に済ませたかったからだ。
ゆえにハトラルコ王らや、及びアルトンの騎士らにもこの決闘を伝えていなかった。
付け加えて王自身の願いとして、人切りの対処は隠密に済ませたいというのもあったから。

「なあ、来るのか? リベクサーは?」

不安が入り混じった表情でアオマサはクロシエに尋ねる。
するとクロシエは鞘に納めていたジルドハントに一度目を向けると、すぐにアオマサらの方へ顔を向けると。

「『安心してください。リベクサー殿は約束は守る性格ですから』って言っているわ」


根拠があろうと無かろうとそう言うのであれば、待つしかないのだろう。
ふと、クロシエは手元にあった懐中時計を見た。
もうすぐ0時。
辺りにはフクロウの鳴き声と虫らの鳴き声が聞こえてくる静寂な時間帯。
暫くその音を聞いていたクロシエらだが、不意に茂みの中からガサガサと音が聞こえてきた。

―――出てきたのはあの禍々しい装甲に包まれたクリーム色の髪サキナ、もといリベクサーだ。
その傍にはメフィシスもいた。
奴の腰には用心の為の剣を携えていて、そして何故かその手にはランタンを持っていた。その光によってくっきりと二人が輪郭が見え、その周辺がうっすらと明るくなっていた。

(あいつ、夜中が怖いはずないのに・・・?)

何で持ってきているんだなどとクロハはいぶしがっていた。
リベクサーの姿が見えた途端、クロシエはジルドハントを抜刀する。
同時にジルドハントから黒い液体が溢れ出す。
クロシエの右手、右腕にその肩、更に右上半身に顔と右足へと侵食していく。
禍々しい鎧を身にまとったクロシエ、とジルドハントはリベクサーを睨みつける。


『早く来ているとは律儀だな。ジルドハントよ』


『決闘と言うのであれば、礼儀を守るのが筋です。リベクサー殿・・・』


クロシエの代わりに答えたジルドハントはそう言い、構えを取った。
これから緊迫した決闘が始まるという空気なのに、ふと、クロハは得体の知れない気配を感じ取ってしまった。
この睨みつけられている様な気味悪い視線―――どうやら自分達は何者かに囲まれているらしい。
リベクサーの傍らにいたメフィシスが少しだけ悪い笑みを浮かべたのを目撃した事で大方察した。


―――手勢を用意しているのか。

奴の考えそうなことだった。
こちらが勝っても保険としてゴロツキ共を配置させて仕留めようという魂胆なのだろう。

(・・・6人か? けれど剣の腕前はクロシエ様の方が上。という事は不意打ち狙いか?)

クロシエやジルドハントもこの気味悪い視線を察しているだろうが、こう言った視線に慣れていないアオマサは気づいていなかった。
最もその視線に気づこうが気づかないが関係なく、自分の妻が救い出せるかもという希望が持っている今の状態ではそちらの方が重要だったから、そんな物は些細な事だっただろう。


(なら守らないとな・・・。アオマサを絶対に・・・)


クロハは武器である槍を掴みながら周囲を睨んでいた。
リベクサーを無力化出来るかもしれない彼を傷つけさせる訳にはいかないからだ。
その事はジルドハントもまた考えていた。
あくまでも決闘という振りをして、隙を見つけたらアオマサに指示するつもりだった。
そしてクロシエはジルドハントにこの決闘を譲るつもりだった。
因縁あるリベクサーが相手であるならば彼女の手でやらなければならないのだ。


(構わないわジルドハント。全力で・・・)



『はい。全力で・・・』


そこで一息付くと、はっきりとジルドハントは宣言した。


『貴方を、救って見せますっ!!』


大地を蹴り上げ、リベクサーへと急接近するジルドハント。
そのまま大剣を構え、上から振り下ろす。
リベクサーは眉毛一つ動かす事無く、その剣で受け止めた。

『救う、だと? 何故そんな戯言を?』

リベクサーが不快そうな表情で返したが今は戯言で言い。
兎に角彼女が隙を見せるようにやりあえば良い。
そのままジルドハントは斬撃を繰り出し、リベクサーへと喰らわせる。
当のリベクサーは大剣でそれを受け止めると、反撃とばかりに剣での薙ぎ払い。
態勢を低くしてかわすと剣を縦に構え、弧を描く要領で切り上げる。
勿論これもかわされた。
右から一閃。
更に左から斜め切り。
縦一文字切りと連続攻撃を仕掛け続けるとリベクサーは歪んだ笑みを浮かべていた。



『良いぞっ・・・!! ジルドハントっ・・・!! そうだ、我々は武器だっ・・・!!』



相変わらずの武器でしかないというリベクサーの考えにジルドハン
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