三日三晩の大雨と強風が過ぎ去った早朝とはなんで心地がよいのだろうか。
サキナはそう考えながら朝の空気を一杯に吸い込んだ。
「う〜〜ん。いい天気ですっ〜〜!!」
特に味とかはしないのだが何故か美味しかったのはこの草木や地面が濡れた際に出てくる臭いが混ざっていたからだろう。
朝の風が彼女の短めに揃えたクリーム色の髪をなびかせる。
朝日の輝きが白い肌を照らし、貝殻を模様した髪飾りが光を反射し、髪飾りを散々と輝やかせた。
待望の晴れ間、村人とかいないこの時間帯。
折角だから散歩でもしようとサキナは決めた。
朝もやがかかっていたが、それがサキナの心を特別な気分に変えてくれた。
元々早起きが苦手な彼女だったが今日だけは何故か早く起きられた。
だからちょっと散歩のつもりで意気揚々と歩いていったのだ。
小鳥のさえずりに、何処からか鶏の鳴き声まで聞こえてくる。
昼間や夜には味わえない特別な時間帯。
だからサキナは歩き続けて、散歩のつもりだったのに村からどんどん離れていき、気が付けばかなり遠ざかっていた。
「あれ? ここまで来ちゃいました・・・」
サキナの眼前には小さなどろ湖が広がっていた。
このどろ湖は村の外れに存在していて、近所の子供達が興味本位で訪れるぐらいしか用はない何処にでもある普通の湖だった。
どろ湖だとしてもまあ折角だからと、軽くサキナは水面を覗き込んでみると。
強風の影響かどうか定かではないがいつもは濁って底が見えない程の水が、今日は透き通って底が見える様になっていた。
フナやオイカワといった子魚が泳いでいる姿が見えてこんな汚い湖にも生物は住めるのかとサキナは能天気に考えていた。
暫く眺めていたら、ふとサキナは気づいた。
「・・・あれ? なんでしょうかこれ?」
サキナの目に留まったのは水面越しで光る何かだった。
太陽の光に反射して輝きを放っていたのだろう。
気になって湖の底に左手を伸ばしてみた。
ちゃぷ、という水の音が響き、そのまま湖の底へと突っ込んでいく。
そしてその何かを掴み、少しだけ持ち上げてみようとサキナは手を引いた。
すると泥底から出てきたのは細長い物体だった。
それは泥にまみれていたから水の中で振って泥を落とし、泥が取れたのを確認して湖から引き上げてみたら―――。
「これって・・・」
物体の正体は剣だった。
しかも華やかな装飾が施された宝剣とも言える品物だった。
ルビーやサファイアといった宝石類が柄に散りばめられ、鞘にも同様の宝石類が取り付けられていた。
握る箇所も凝っていて金色と思われる色が着色されキラキラと光を反射し、美しさを演出している。
試しにサキナは鞘から剣を右手で抜いてみた。
スチャッ、という鈍い音と共に刀身が現れ、太陽の光が反射しキラリと光る。
その刀身は、ぱっと見て白銀色だったが刀身の周りを囲む様に水色に染められた水晶みたいな刃先が取り付けられていた。
まるで美術品か何かの様なその剣の美しさにサキナは見とれてしまった。
「凄いです〜。確かジパングとかで『早起きは何とかの得』だとか言われていますけどまさにその通りでしたね〜」
感嘆の声を挙げ、サキナは喜んだ。
恐らく盗賊とかだったら喉から手が出る程の代物だ。
それほどまでにこの剣は美しく、高貴だった。
これを売ればいくらになるのだろうか。
もしかすると一生遊んで暮らせる額なんじゃないのか、などとサキナが考えていた。
その時だった。
―――・・・たい―――
「えっ?」
急に声が聞こえてきた。
聞こえた、というよりも頭の中で響く様な感じだったが。
サキナは思わず辺りを見渡した。
されど人っ子一人いない、この場には自分とこの宝剣だけだ。
だから空耳かと思っていたが。
―――・・・りたい―――
だが、また声が聞こえた。
空耳なんかではない。
それは女性の声だった。
やや高圧的で、されど冷静そうな声だった。
―――切りたい―――
「切り・・・た、い?」
今度ははっきりと聞こえた。
あの女性の声だ。
だが先程聞いたあのやや高圧的で、冷静そうな声ではない。
一見正気を見せかけているが何かしらの狂気を孕んでいて、まるで何かを欲しているような・・・。
―――切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい―――
「えっ? えっ?」
狂ったように聞こえてきた女性の声。
その声は、飢えていた。
ただ欲するがままに殺戮衝動をむき出し、獲物はいないかと血まなこになって探す殺人者の様な声だった。
その台詞にサキナは困惑し、そして恐怖もしていた。
―――切りたいっ!!!!―――
その瞬間、美術品だったその宝剣が変貌する。
『ボコッ! ボコボコッ!! ボコッ!!
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