『情報を扱うなら、それ相当の責任を持て』
それが『ラタトスク』であるサマンサの座右の銘だ。
ラタトクスという種族に産まれたのだから情報の取り扱いに長け、尚且つ真面目に取り組んで情報を提供する事を信条としていた。
けれどもラタトスクは時に情報を誇張したり、でっち上げたり等しているのを彼女自身は良く知っている。
そもそも悪戯好きな種族なのだからその性質を知っている魔物や人間たちは彼女達を咎めようとは思わない。
あくまでも人を傷つけない、可愛い程度の悪戯なのだから。
だが彼女はそんな事絶対しないと決めていた。
それは自分のポリシーとやらが許さないし、ねつ造すれば読者からの信頼を損ねてしまうというのが主な理由なのだがそれよりも優先すべき理由が彼女にあった。
そして今、彼女は大学を卒業し新聞記者としてこの新聞社に勤めていた。
この新聞社『クリエイト・サイエンス』の記者達は全て魔物娘らで構成され、小規模レベルの新聞会社ながらも
『歪んでいない情報と常に真実の情報』
を第一に掲げていたので情報の加工や着色して誇張するのが多い大手の新聞会社よりも信頼を得ていた。
元々この会社は注目を浴びて大手の仲間入りをしようなどという野望はなく地域密着型の――例えば子供が産まれたとか、恋人が出来たとかのレベルでの―――記事を中心に掲載していたのも要因だった。
ただし思わぬ副作用とやらを呼んでしまっているのが実情だったが。
何はともあれ真っ当に、堅実に働き続け2年が経過した今、上司からも部下からも信頼を得ていた彼女に不満はない。
―――いや、不満はないと言えば嘘になる。
だからサマンサは今ある記事を書いているのだ。
椅子に座りながらパソコンとにらめっこし、慣れた手つきでキーボードを打ち込み、時折マウスを回していた。
そして画面に向かう事30分、満足した表情で頷く。
「よし、出来た」
その原稿にはこう書かれていた。
『サマンサ氏、遂に恋人が出来る!! お相手はあの人?』
というデカデカと書かれた見出しに、自身が誰かと手を繋いでいる写真と文章とよくある新聞記事の一部だ。
中々立派な記事で一般の新聞記事として出しても違和感ない出来だった。
だがこれは普通の記事ではない、これは嘘の新聞記事だ。
「エイプリルフールの記事としては完璧よね。まさかここまで凝ったものを作るなんて」
エイプリルフール、つまり
#22099;をついてもいい日。
ラタトスクとして産まれてしまった以上、性格からか、はたまた種族柄かどうしても悪戯というのはしたくなってしまう。
されど他の人達に迷惑とかはかけたくないし自分のポリシーとやらを曲げたくはない。
だからエイプリルフールというその日に合わせて、自分がお付き合いしているという嘘の記事を作成して皆を驚かせようと思ったのだ。
無論、配慮とかはしている。
掲載している画像は自分が誰かと手を繋いでいる、がそれが誰なのか分からせない為、写真を相手だけが見切れており、相手の手だけが映っている。
またお相手が誰なのか曖昧な文章にして、読み手の判断に委ねるといった形式にしてある。
そもそもエイプリルフールの日専用の記事であり読み手の人達はこぞって嘘だというのが分かるはず。
だからこんな偽情報を鵜呑みにするというのにはまずないと思うが。
兎に角、これで記事は完成はしたのだ。
そう思えば自然と笑みはこぼれるし、背中を伸ばして大きく息を吸い込んでしまう。
一仕事を終えたサマンサはデータを保存しパソコンからUSBを引き抜き、デスクに置いた。
「さてと、自分への報酬として甘いココアでも作ろうかな?」
そう言い給湯室へと入ったサマンサは戸棚をあさり、マグカップとココアの粉が入ったステック袋を取り出す。
次にお湯を入れようとしたがポットが空だったので水を汲もうとした時だ。
「サマンサさん。編集長から記事の提出はまだかって催促が」
偶然にも後輩である『魔女』のイリスが入室してきた。
やや不器用でドジな面もあるが、素直で大人しい子だからサマンサにとっては良いパートナーだった。
「ああ。そこのUSBを持ってて」
自分は今、手が離せない。
だから彼女にデスクに置いてある提出用の記事が入った桃色のUSBを持っていかせようと考えた。
だがここで不幸が起きた。
桃色のUSBは“二つ”あったのだ。
一つは提出用に制作した記事が入ったUSB。
そしてもう一つはエイプリルフール様に制作した先ほどのUSBだ。
更に不幸は重なった。
後輩はサマンサのデスクを見ようと振り向いた。
その拍子に彼女の体がサマンサのデスクに積んであった資料の山とぶつかる。
資料の山が崩れ去りデスクの上に散乱する。
その拍子に二つあった桃色のUSBの片方が埋もれてしまった。
「ああっ!! ごめんなさ
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