世の中は実に不公平だと彼女は思っていた。
力があるにも関わらず悪行に走る人間もいれば、善良であるにも関わらず力がない人間もいる。
善良な人間で力があれば世の中は平等に、公平になるのだろうと彼女は思っていた。
だが神様は与えるべき人間に、力を与えてくれない。
与えるべきでない人間に、力を与える。
なんて気まぐれで、我儘で、無責任な奴だろうか。
もしその神様とやらに会ったのならば文句の一つぐらいは言いたかった。
何故なら彼がまさにその被害者なのだから。
「ストリアさん。ここです」
そう言い彼が指さしたのはぽっかりと空いた洞窟の入口だ。
大きさは大人二人が横に並んで入れるぐらいのサイズ。
ストリアと呼ばれた女性は改めて彼、ヴィヴァンを見つめる。
金色の乱雑とした髪の毛に、まだあどけなさが残る童顔。
膨れていない筋肉に不格好な鎧姿が目に移れば複雑な気持ちが湧き上がってくる。
おまけに背丈が自分より少しだけ低い、教団の騎士見習いでも自分より高い人間がいるのは常識だと思っていたのだが。
彼はひと一倍正義感とやらは強いのだが実力が伴っていない、ゴロツキの一人あしらえるのがやっとの強さなのだ。
それでも正義感は強いのが売りの彼だから教団のお抱えの騎士隊―――言うまでもなく末端の隊だが―――に所属している。
そこでの彼の扱いと言えば、雑用係にも似たものだ。
掃除や武器の手入れは日常茶飯事。
馬の世話にじゃがいも等の皮むき、果ては雑草取りまでさせられているらしい。
流石に騎士とは関係ないものまで押し付けられている状態で不満を挙げないのはどうかとストリアは思った。
それに引きかえ彼女、『魔法使い』のストリアは上級の魔法を難なく使いこなす女性だ。
一時期ではあるが高名な勇者と同行した実績があり、その為ヴィヴァンがいる騎士隊でもその名前は届いている。
肩辺りまで伸びている黒色の髪に美しい顔、スレンダーな体つきで確実に美人と言える女性だ。
余りにも不釣り合いな二人が何故こうして一緒にいるのか。
それは話せば長くなるが。
きっかけは数人の騎士らに彼が因縁を付けられている場面にストリアが出くわしたからだ。
彼は実力が伴っていないにも関わらず間違いを許さない人間、所謂いじめのターゲットにされやすい人なのだ。
不正とか規定に反した人間に対して注意する人間がいれば煙たがれる、そう考えれば納得してもらえるだろうか。
彼の場合も同じで教団内で御法度となる賭け事が何度も行われていたのを目撃していたので止めた方が良いと忠告したが『お前の注意など受けない』と先輩騎士らが彼を殴りつけた所へ、遠征の為滞在していたストリアが出くわしたのだ。
流石に見過ごせない状況だったので堪らずストリアは場に入って彼を助けた。
『ちょっと、何しているの』
相手を威圧するかの様な声を出してこちらに注目させた。
すると彼らはストリアの顔を見ると怖気づいた様な表情を見せた。
『い・・いえいえ、ただの勘違いですよ。決してこいつを虐めている訳じゃないですよ』
そう言いながら彼らはすごすごと立ち去っていった。
自分より下の人間ならば手を出すが、上である自分に対しては手を出さない。
賢い選択だが何とも情けなく、下劣な奴らだった。
おまけに馬鹿な口答えをしたとストリアは内心呆れていた。
いじめじゃないなら『虐めている訳ではない』と口を滑らせる馬鹿が何処にいようか。
それを口にしている時点で自分達が彼を虐めているという自覚がある、と証拠になるのだと言うのに。
そんな下らない事は忘れ、倒れている彼を起き上がらせると治癒の魔法を施した。
『ごめんなさい。迷惑をかけて』
ストリアが聞いたヴィヴァンの第一声。
まず謝罪したというヴィヴァンの行動に彼女は釈然としなかった。
決してそれは間違いではないが、出来れば感謝の言葉が欲しかったのが本音だった。
『これぐらいお安い御用よ』
そう言いストリアは彼の顔を見つめると次は何気なく彼の腕に目をやった。
そこでストリアは気づいた。
彼の両腕にはあいつらに付けられた以外の傷がちらほらとあったのだ。
その傷について尋ねると彼曰く、自分は不器用だから生傷が絶えないとの事らしいが。
取り合えず、頬に受けた傷と目に見えている傷すべてに治癒を施してみた。
傷が見えなくなったのを確認するとストリアは彼を立ち上がらせた。
『これで大丈夫よ。まあ怪我しないで、とは言わないけど。無理はしないで』
『その、本当にごめんなさいストリアさん。それじゃ僕はこれで』
彼が背を向けて去っていくその姿にストリアは不安がっていた。
またあいつらに因縁とかを付けられるのではないだろうか、と。
が次には心配しすぎだなと不安を振り払った。
たまたま自分があそこに居合わせてしまい、偶然怪我が多い状
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