大陸南南西部に位置する中立派の領、ワンマイド。教会も魔物も適度に受け入れ、どちらにも偏らず適度に血の出ない衝突をさせていたこの領では、数十年に一回、武闘会が開催される。
主催者はこの街の権力者の一人であるジョージ=ウェリッシュ。由緒正しきウェリッシュ家の第二七代目当主にして、領主一族であるワンマイド家の懐刀である。見てくれこそ先祖譲りの粗野な醜男であったがその実、義侠心と自律心に溢れ、武器を手に腕を振るう代わりにペンを執り、外交官として各地の交渉を取りまとめてきたのみならず、自身も内政者として民を取りまとめてきた。
人々は言う。かの一族は姿を犠牲にして万能を得た、と。
その彼が執務室で今現在保持している物は、歴代のウェリッシュ家当主が取りまとめてきた武闘会の実施要項と、一振りの剣。
その剣は、ある二点を除けば普通の幅広のトゥーハンデッドソードである。変わっている点の一つは、刃の色が全体的に赤く、さながら血を纏っているような色合いであること。そしてもう一つは、柄の部分が旧魔王世代のドラゴンの手を思わせるような形状をしていることだ。
この剣が、武闘会における優勝者への景品である。一年ほど前にハーピー夜間便によって届けられたことから、ジョージは先祖代々のお達しの通り、武闘会を開催する計画を立案した。
会場の設営、案内ビラや情報の伝播、教会勢力に対する対策などを、生来のものであり経験によって磨き上げてきた外交力と内政能力で迅速且つ丁寧に行った。
彼らに伝えられているものは二つ。
一つは、大会開催日について。必ずワンマイド家祝誕祭に合わせること。これはワンマイド家側の都合が大きい。一生のうち一度見られるか分からない、大規模な武闘大会である。当然それ目当ての客も見込めるわけで、領の臨時収入に貢献させるために日付を定めているのだ。
もう一つは、出場資格について。大会に出ることが出来るのは、未婚の男性か、息子のいる父親に限定されている。年齢は関係ない。思想信条は関係しているかもしれないが、未だかつてそれが破られたことは……一度だけだ。
当時優勝し、剣を授与された者は女性の権利を声高に叫ぶ、女性の力を証明する為に性を偽り参加した女戦士であった。彼女はその剣と共に、数々の戦績を収めた後、ある時を境にしてその行方を眩ませることになった。しきたりを破った呪いを受けた事を知った領主は、以降万が一女性が紛れたときのために渡す銘剣"征天"を用意するようになったという。無論幸いなことに、受賞者はまだ存在しない。
そして今年も受賞者は現れなかったことに……ジョージは安堵の溜め息を漏らすのであった。
――――――
「――では、第十二回ウィリッシュ大武闘会の優勝者、リュウ=エクリア。前へ」
「はっ」
司会の声に立ち上がった男――リュウは、他の大会参加者と比べると、何処か頼りなさげな風体を持つ男であった。筋骨隆々としているわけでもなく、かといってもやしというわけでもない至って普通の体に、都会ではまず一般人Aとして認知されそうなぱっとしない顔。どうしてこの男が勝ち残れたのか、不思議に思った者も大会初めのうちは居た。
だが彼は勝ち残り、そうした声も消えていった。彼の戦術、それはまるで柳のように相手の力を受け流し、そのまま無駄のない動作で剣を振るう、というものであった。その流れるような動きは、見る側を興奮とは程遠い、まるで宮廷での舞踏会を眺めるような心地にさせた。観客は舞踏会の終了と共に、友に語ったという。
「素晴らしかったよ。血沸き肉踊る剛の戦いを期待していたが、あの様な華麗な柔の剣を用いた戦いもまた、それはそれで良いものだなと気付かされたさ」
ともあれ、リュウは全ての戦いで勝利を収め、こうして表彰台の上に自らの足で立った。面を上げよ、との指示に顔をあげると、其処にはジョージ=ウェリッシュその人が、剣を手に彼の前に立っていた。……恐らくリュウが立ち上がれば、彼を見下ろす事になるであろう身長ではあったが、それを気にする観客は何処にもいない。誰もがかの一家の業績を知っているからだ。
緊張の面持ちで見つめるリュウに、ジョージは人を不快にしない程度の笑顔を浮かべ、三位入賞者、準優勝者に賞金を渡していく。そしてリュウの前に立つと――柄だけを外に出した剣を、金貨が入った袋と共に手渡した。
「――唯一無二の業物であり、この大武闘会を制した貴殿の実力の象徴だ。貴殿がこれを用い、数々の武勲を立てる未来を……我等は願っているぞ」
思いを込めた一言にリュウは肯き、剣を手にする。会場に響く喚声。それらを突き抜けて――ジョージは閉会の言葉を――叫んだ。
「――これにて、第十二回ウィリッシュ大武闘会を閉会する!力を見せ勝ち抜いた者、力及ばずも健闘した者、全ての参加者に――今一度の盛大な拍手を
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
9]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想