『"稲荷のお店"できつねうどん定食を食す』

「……700」
「1200や」
「……765」
「1192や。堪忍してんか」
「……573」
「ってものっそ減っとるやないか!アホ抜かすな!1333!」
「……は冗談として」
「冗談やったんかい……顎外れるかと思うたわ」
「……850にしてくれない?流石に出せるのはこのくらいが限度なの」
「1000や。850やとウチも商売上がったりやねん」
「……じゃあ900」
「……950や」
「900」
「……」
「900。それ以上上がるならこの話、無かったことにして、別を……」

「……だぁぁ!しゃあない!それで手を打ったる!
山葵一箱900、それを五箱や!」

――――――

『デルフィニウム』の料理長さんに頼まれていた山葵を四箱、宿にお釣りと一緒に届けると、私は先ほどの商談相手の刑部狸:スズリ=マーブックに追加で300支払った。目を丸くするスズリ。
「?何のつもりや?」
「一箱は私用だからね。業務(バイト)とは別のところでは、最初に言った値段で買うのがポリシーなの」
流石に金がある状況で業務経費で値切るなんて狡いことはしたくないし。他の子からしたら変かもしれないけれどね。
「さっきあんだけ容赦なく値切ろうとしたあんさんの言う台詞ちゃうで……ま、おおきに」
ピコピコとまんまる狸耳とふかふか尻尾を振るスズリ。けど明らかに動きが不服そうだ。仕方ないわね。売る相手が『狐』だし、なるべくふっかけようにも毎度の如く煙に巻かれている上に値切られたら……吝嗇家が多い刑部狸からすれば腹は立つでしょう。
でも私は知っているし、ハンスもランちゃんも知っている。彼女が抱く夢の一つ――山葵の大陸伝播計画の実行のために、宿の協力が必要だと考えているから、嫌悪を押し留めて取引を進めていることを。

「……これも未来のためや。今にみとりぃ……。ウチの一歩先を行く、一味売っとる烏天狗を今に追い抜かしちゃる……。ウチが大陸に山葵を広めちゃる……。山芋も拷問以外で使われるようにせな……」

……仁義なき、香辛料戦争、か。ケンタウロスが作るマスタードとも一バトルありそうね……っていうか、とろろってそんな使われ方されていたの?一体全体何処の国よ、全く……あ。

『ねぇねぇ知ってる〜?とろろって擦った物を肌に付けると美容に良いんだよ〜!』

……以前フェアリーやピクシーにデマを一斉に流しやがったインプが居やがりましたか。汚いな流石インプきたない。あのデマで何組のカップルが苦悶を味わったことか……。そう言えばそれが原因で今でも一部の地域じゃ持ち込み不可よ……美味しいのに。

『なっ!何でこんな物入れなきゃならないのよ!禁止よ禁止!錦糸卵よ!』

……何でそこで錦糸卵を出したの、スキュラ族長娘さん。と言いますか何故そこまでとろろを目の敵にしているのかしら。……あぁ、そう言えば以前ジパングの海に行ったことがあったらしいから、アレかしら……。まぁジパング故致し方ないわね。
さて。山葵を手に入れたことだし、私も一度、部屋に戻りますかね。手紙も溜まっていることだし……まぁ、大半は店を開かないか?でしょうけど。ごくごく稀に別件の手紙が来ていることだし……。

「……『帰還(リターン)』」

と言うことで、部屋に帰還。さて、早速自作魔力抜き農場で働く魔女達に労いと訓練をしないとね。定期的にしているから、今日はその復習と行きましょうか。

――――――

「――かなり良くなったわね。魔力コントロールが以前に比べて良くなっているわよ」
これでベンジャミンも文句を言うことはないでしょう。魔力自体の底上げも含め、彼女達の魔法使いとしての実力は上がったはずよ。
「「有り難う御座います!」」
体育会系かと思われる一礼をする魔女数名。サバト内部自体に序列があるから仕方ないけど……可愛らしさがなぁ……。まぁここで2%-笑顔全開で「ありがとう!リリムのおねえちゃん!」なんて言われても困るけど。寧ろその笑顔は男に見せてやりなさい。
何も私は彼女達にただ働きさせていたわけではない。この脱魔温室で働くこと、それ自体がある種の修行になっている。魔法生物や空気中に存在する魔力を、人間界平均よりも若干低く強制的に保つ空間になっているこの温室中で、魔力を使わせて手伝わせているのだ。農作業は基本、力が必要。魔力は兎も角身体能力は推して知るべしな魔女は、魔力を使わなければ耕すことすらままならないでしょうし。
自身に魔力を纏わせ定着させる身体強化術、道具にもその範囲を延長させる身体強化術の延長、魔力でその道具を模した、しかも性能を強化したものを創り出す具現術……これらは体力が尽きがちな魔女の必需品なのよねぇ。だから維持すること自体が難しいこの空間でやらせるだけで、コントロールと魔力上限、そしてスタミナが同時に付くわけ。
マッスル
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6 7]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33