『レスカティエを崩壊させた姉に呆然しつつ、旅支度』

とある日の午前四時くらいに、魔界の王宮にある自室、そこで私はドライアドから貰った木を加工して作った椅子に座りつつ、勉強机に両肘を置き……一人頭を抱えていた。

「……わぉ……」

やりました。
やりやがりました。
やりやがりましたよあの過激姉。
前から「あそこは狙い目よねぇ」とか漏らしていたから形勢を整えてから侵攻かけるんじゃなかろうかと予測してましたが、整えるまでもなく短期間で半自壊させやがりましたよ――レスカティエ教国を。
数々の勇者を輩出し、人々も神の教えに従順であった筈のレスカティエ教国。そこにあった蟻の穴のような幽かな綻びを見つけるとは。確かに今になって客観的に見てみれば、税とか身分差とか問題点ありまくりだったのだけどね。自他共に認める『過激派』である姉のことだ。その辺りの調査は抜かりなく恙無く行われた事だろう。行動は大胆に、下調べは緻密に。
けど……せめて、それならば……。

「……大教会周辺の喫茶店の味評判も調べて欲しかったわ……以前魔力を抑えて行ったあの店のパフェがわりと美味しかったから、作り方とか色々知りたかったんだけど……」

……姉にそれを期待するだけ無駄なのは、分かってはいるのだけど。寧ろ他の姉妹に期待するのが大概無駄だって分かっているんだけど……はぁ。
あぁ……記憶を元に再現するしかないか、と私は、材料をメモした羊皮紙を見て、また溜息を吐くのだった……。

――――――

ごく普通の魔王である母と、ごく普通の元世界最強の勇者である父の間に産まれた、ごくごく普通のリリム。
しかし、私――魔界第二三王女である私には、他の姉妹達とただ一つ違うところがありました。
それは――。

「――あーあ。これであの『聖パフェ』も前回ので食べ納めかぁ……。ハーブアイスが口の中で爽快感を演出し、ホワイトチョコが適度にそれを和らげる中々良いメニューだったのに……」

――なんと、王女様は食い道楽だったのです。しかも、一口食べただけで使われた材料が分かる敏感な舌を持っていたのです。
あ、言っておくけど某異世界の淫魔でプリマハムとか呼ばれてる彼女のような体格じゃないわよ。体型はどちらかと言うとスレンダー。

魔界と化す大地では育たない植物があり、それを用いた料理は魔界化すると食べられなくなる。試しに種を魔界で植えてみてレシピを(ちょっと強引に色を使ったりして手に入れて)料理してみたら、全く違う料理になりましたとさ。そもそも全く材料が違うものでしたとさ。うう……想定したのよりも甘ったるくて私には食えたもんじゃないわ、この『魔界苺と三種ハーブのミルフィーユ』。
実際味も人を引き付ける点では魔界植物に敵うものは早々無いのは確か。けど、料理はそれだけじゃいけないのよ。時として突き放す大胆さも必要だし、月下氷人にちょっとした変わり者を入れる事で新たな魅力を引き出したりとか。
料理は単純な足し算じゃない。引き算に見えるものが、実は掛け算だったりするもの。だから密かに魔力の影響をあまり受けない庭園を作ったりして、味覚の探究をしてみたり。味わう相手があまりいないのが残念かなぁ。

例:騎士団長クラスのデュラハン「う、うまい!美味しいですよ王女様!兵の士気向上と健康管理にも向いています!」

流石デュラハン、実践的だわ。レシピを渡したら、渡したメニューの廉価お手軽版を軍で作るなんて。建設的意見と言うより感想だけど。

例:バフォメット直属の魔女「か、完敗ですの……。ベンジャミン様は甘いのがお好きなのですが、これはどんな甘みよりも甘い……それでいてその甘みもしつこくない……何使ったんですの!?教えて下さい王女様!」

レシピと引き替えに魔力遮断室を一つ建設してもらったわ。除湿機ならぬ除魔機も発明してもらってね。というのも、後でその娘がバフォメットとこんな遣り取りをしたらしいの。

「ベンジャミン様〜」
「む?何じゃアジコ?」
「デザートをお届けに参りました〜」
「む。……む?新作かえ?」
「はい。さる方よりレシピを頂きまして」
「む。そのレシピを渡したのがどんな馬の骨かは知らぬが、アジコの特製プリン・ア・ラ・モードを越える甘味など早々無いのじゃがな……」
「ふふ……ささ、どうぞ召し上がれ……♪」
「む、では頂こうか……!?」

「――う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ま〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぞ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!(エコー、ディレイ有)」

……馬の骨、ねぇ。まぁ敢えて知らせてなかったから仕方ないわね。で、バフォメット――ベンジャミンが気に入ったので、定期的に作って欲しいと、材料確保の場を作らせた……というお話。

そうして出来た無魔力畑で、私は色々栽培していたりするの。懐かしいわ……始めのうちにサバトの協力を笑顔で
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