大概寝起きというのは一日の始まりでもある一方で、大概の出来事の始まりをも意味する。日の出が一日の始まり、と言うのは分かり易いが、寝起きは特にそれは思わない人も多い。そんな人は勿体ない。見回してみれば、きっとわくわくするような出来事が転がっているかもしれないのを、惰性という魔物に御執心になって盲目になってしまっているのだから。
そう、例えば今の僕の状態は、まさに出来事真っ盛りという状態だ。身長より遙か巨大な勉強机、まるでやり投げの槍のような長さを誇る羽根ペンの先端が鋭く自分を指し、枕に出来そうな大きさの綿埃がそこかしこに散らばって纏まっている。
因みに自分が今立つのは自前のカーペットではなく、湿り具合から僕の服であることは容易に分かった。素晴らしい。視点が変わると世界が変わると言うことよく分かるなぁ。古来より体格差を愛でたり違うものに焦がれたりする心理の真理の一環か一片を見た気がする今日の朝。
……さて、一頻り現状を褒め讃えたところで、主賓……いや、主犯を迎えるとしよう。幸いそのホストは僕のことに気付く気配はない。ふふふ。確かに前からその気配はあったものねぇ。僕も彼女と一緒にいる以上経験してみたかったから、ある意味願ったり叶ったりだけどさ。
まぁ……でも、ほら。よく言うじゃない。『様式美は大切だ』って。だからせめての感謝を込めて、
「んぁぅ……カシオレクッキー食べたいなぁ……」
全力で、
「それか蜂蜜酒かしんるちゅお願いしゃーす♪えーたまにはいぃじゃんさ♪僕と君との仲だし――」
――一本背負い。
「――へにょおおっ!」
どこで覚えたか分からない叫び声をあげながら、僕の体をウルトラベリーミニマムサイズに縮小して下さいやがりました同居人のピクシー――ミニムは布が折り重なった布団地帯に頭をめり込ませた。うん、見事な犬神家。ついでに穿いていない趣味なのも発見。後で舐めてやる。
「……ふぅ♪」
一仕事やり終えたように一息吐いて爽やかな笑みを浮かべると、僕はそのまま彼女の両足を掴みつつ脇に抱え、布団の中から引きずり出した。
「みるくぱぅわぁ〜♪」
どうやらホルス乳業のテーマソングを目を回しながら歌っていたらしい。やたら牛乳をねだる理由は分かり易いが、アレは確か村伝説では直吸いしか豊胸には効果がないらしいぞ?かと言って直吸いしに行かれても困るけど。
「……ちゅー」
起きている。絶対起きているぞこのピクシー。まぁ、キスくらいなら許そうかな。男と女がすっぽんぽんで互いに向き合う以上、それは生命の摂理だし仕方ないよね♪うん♪朝っぱらからヤるなとか言うな。
「……ちゅー」
フレンチ御所望、フレンチ御所望ですか彼女。まぁそこまでは許さないよ。うん、絶対許さない。そんな甘い考えをする子には……お仕置きだべ♪
「――マキシマ式全身拘束術」
「それだけはらめぇぇぇっ!」
お、起きた。しかも悪夢を見たかのような表情で。そんなに怖いか拘束術。
「お早うミニム。黄金の蜂蜜酒(試作品)の味はどうだった?」
僕は心からの笑顔で、目の前の悪戯娘を眺める。まだ青い顔が戻らないミニムは、やや息も絶え絶えに呟く。
「ハーピーの領域より遙か高く飛びそうだったよ……ってか、マキシマ……その拘束術は止めて本気で止めて超止めて」
「どうして?」
ニヤニヤと聞いてみたところ、彼女は本泣きの表情で僕に叫びながら掴みかかってきた。うん、やっぱり泣き顔が可愛い。
「誰が好き好んで肥満体になったアタシが亀甲に縛られ悶えながら『イイ!イイワ!ソノチョウシヨ!』なんて叫ぶ醜態を演じるアンタを凝視しなきゃならないのよぉ!このド変態!しかも目を閉じても見えるし!耳塞いでも声が聞こえるし!逃げようにも足と羽根は動かなくなるし!」
説明しよう!マキシマ式全身拘束術とは、相手が逃げ出せなくなる程度の拘束術を掛けた後、相手の『一番見たくない自分の拘束中の姿』を演じる僕を声付きで延々と見せ続ける、まさに相手にとっては嫌悪感しか湧かない術なのだ!
「変態は僕には褒め言葉だよ?この家にいるキミは分かってるとは思ったんだけどねぇ(笑)」
「キ〜ッ!ムカツクゥーっ!そもそも何で小さくされてるのにそんな余裕なのさっ!」
「そりゃだって、『天人フルコース』被験者だもん♪」
「関係あるのそれ!?」
「大有りなのだ、まる」
天人フルコース……この界隈では名の知れた、強制ドM化システムである。それこそ、あらゆる被虐を快感と捉える程度に。
つまり……僕、マキシマにとってはあらゆる僕を陥れる行為が、言動が快感なのである。元来ハイパーポジティブであるだけに、最早無敵、ムテキ、MUTEKI!
「……まぁ久々に会ったマチルダちゃんの様子で、それは分かってたけどぉ……ぅぅっ」
ミニムは案外交友関係が広い。それはピクシーやフェア
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