「……あむあむ」
タイトルに突っ込む気も最早失せた私――ラン・ラディウスは、ジョイレイン地方で行われた『絡繰祭』で売っていた『カシオレクッキー』をつまみながら、準備を終えた宿の番台で一人だれていた。
懐かしい味がした。私の田舎では在り来たりな家庭菓子ではあったんだけど、それを懐かしく感じるほどに、長く故郷を離れたんだなぁと染々感じてしまう。
ちなみにカシオレの実は、地元の銘酒の原料でもあったりする。熟した身に酵母をまぶしてからいろいろあってお酒になるんだけど、甘くて美味しいお酒になる。これは地元の特産品みたいな感じで売られているかな。教会の人しか飲めなかったりもするし。
「私が飲んだのも、ここに来てからだしなぁ……」
背中で尻尾が、所在無さげにパタリと揺れる。既に……八本。あと少しで九本。手触り感が気持ちの良い毛束がポフポフと動く度に、とりきれなかった隅の埃が微妙に舞い上がる。寄生虫の心配はない。流石に妖狐の魔力は害虫にも毒らしい。
「……ふぅ」
ここまで一気に増えたのも、最近にかけて……というより尻尾が一本増える度に段々とオーナーの責めが自重を欠いてきているせいだったりする。
『獣式百八手をやろ〜よ〜♪』と、九尾の狐限定で人間に対して行われる交わり方を私相手にぶっ通し五周やったり、『焦らしプレイっていいよね〜♪』と、体の自由を奪いながら、触れるか触れないかのところを行ったり来たり、触れてからも連続寸止めをされたり、『オトコノコ、してみる〜?』と尻尾を一本オトコダケに変えられて秘所の上に生やされてハメられたり……。
……逝った回数は、一日に十回より先は覚えてない。むしろ覚える余裕がない。人間なら廃人になりかねない、いや、絶対に廃人になるくらい濃度が酷い、オーナーの魔力がだだ漏れの状況で、換気用の設備があるが決してオーナーは使用しない密室で、店を準備することも出来ず、助けを呼ぶことも出来ず、下手をしたら朝から三日後や四日後の夜まで犯されキスされナメナメされ揉まれ撫でられモフられハグされすぼすぼされ穴という穴に入れられ交わり続け、ありったけの魔力を自重無しの勢いで注がれ続けた。
その結果……体のあらゆる部位は徹底的に開発され、快楽に慣れたが故に常に快楽を求めるようになり、男は愚か人間を見れば、どう犯そうか頭で考えてしまうようになり、番台をやっている最中も、気を抜けば尻尾が一本、しゅるっと生えてきて股間をまさぐる始末……。あぁ……きっと頬も熱ってるんだろうなぁ……。
ちなみにだれている理由としては、この時間に客が来ることはない。来るとしたら数分後であるということが十分判明しているからだ。所謂、同伴出勤の子達が来るまで、完全に暇になるわけで。
八尾になってから、私のスキルはますます上昇して、人間だったときの五倍以上の効率で店の設定を行えるようになった。オーナーの言う店の問題点や疑問点も理解できるようになった。確実に個人のスペックが上昇している。これも妖狐になったからだろう。
……。嬉しいやら悲しいやら。
「あら、番台さん。ふふふ……お味の方は如何でしたか?」
暇潰しに帳簿の方を三度確認している私に話し掛ける、おっとりとした声。私が顔をあげると、そこに居たのは長い髪を金の簪で纏め、蜘蛛や蜘蛛の巣が描かれた、紺に白絣の着物を身に付けた、白い肌がとても艶やかで綺麗な、源氏名'ゲイシャ'さん。
「有り難う御座います、ゲイシャさん」
「あらあら……他の方はいらっしゃらないのですから、私の事は源氏名で呼ばなくても宜しいのですよ」
ふふふ、と奥ゆかしそうに、袖で口許を隠す'ゲイシャ'――ミナエ=ジョウレンさん。ミナエという名前は『オミナエシ』という花からとったらしいけど……彼女の種族から考えた可能性もある。
女郎蜘蛛である彼女の下半身は……分かりやすくはっきりと言えば巨大な蜘蛛だ。本来、蜘蛛にとっての顔と口にあたる位置には、女体の象徴である一本の筋が控え目に入っているが、それは着崩された着物の前掛け部分で隠れている。
八本の足を覆う甲羅は武器にもなるらしく結構固い。その代わりに柿の実状に膨れた蜘蛛の腹部や胴体はふよふよと柔らかい。時折'エンプレス'様や'ドーター'、あと'アリス'ちゃんが飛び乗ってふかふかもふもふしていたりする(ちなみにその三名は私の尻尾もふかもふしている)。
オミナエシ――女郎花はこう書く事から、女郎蜘蛛がつける簪にはよくその紋様が刻まれることが多いらしい。花言葉は『約束を守る』と言うことも、彼女達に伝わる伝説を考えればぴったし合っているし。
……話が逸れた。そんな、『デルフィニウム』で働く女性の中でも比較的常識人な彼女、ミナエさんは源氏名でだけ呼ばれるのがあまり好きではないらしく、こ
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