『デルフィニウム』においでませ!

この世界に於いて、歓楽の里と呼ばれる場所は少なく、歓楽の地とまで呼ばれる地ともなると指で数えた方が早い。
代表的なのは『ジョイレイン地方』だろう。あらゆる娯楽を早々に取り入れ、開発し、嬉々として外部に搬出している様は、まさに『娯楽の発信地』だ。
巨大歓楽施設ならば『絡繰姫』ギーァルード=ヴィッテンの治める地方が、対象が人間のみであるとはいえ有名である。機械の原型とも言える精巧な絡繰を、製法を何処にも公開せずに作り上げているのだ。一説には、『絡繰祭』の入賞品は二年前に既にその地方で完成されたものだとか……。
だが、そうした者が提供する歓楽は全て、『楽しむ』ものである。『愉しむ』物としての歓楽も、また一つの国として存在するのだ。そして、その中心に存在するのは、何も人とは限らない……。

――――――――――――――

「ひい、ふう、みい、よ、ちゅう、ちゅう、たこ、かい、な……」
手元でこの地方の共通紙幣を数えているのは私――ラン=ラディウス。番台で、本日の収入を計上しているのだ。
「ひい、ふう、みい、よ、ご、ちゅう、ちゅう、たこ、かい、な……」
前の番台さんが一身上の都合で辞めてからずっと、私はここで番台をしている。最近ではこんな感じで、経営に関してやる気のないオーナー……というかご主人様の代わりに帳簿をつけたりしている。
『別につけなくてもよくなぁい?ほら、黒字だろうし』
黒字なのは否定しませんが、つけなきゃいつ赤字になるか分からないのですがねぇ。はぁぁ……。
「ひい、ふう、みい、よ、ご、ちゅう、ちゅう、たこ、かい、な……と」
ようやく数え終わった収入を、帳簿に記す。うん、今月も既にノルマを達成済み。そのノルマが低くない?って質問が何人かから来たけれども、
『下限で良いじゃない。気持ち良くナニするんでしょ?ノルマに縛られてスコスコやっても気持ち良くならないわよ〜』
オーナーがこの通りなお考えでして。判断基準は快楽オア気持ち悪いなんて……分かりやすすぎる事この上ないですよ。そもそも……。
おっと、愚痴思考もこれくらいにしよう。私はつけ終えた帳簿を持って、オーナーの居る部屋へ向かう事にした。

――――――――――――――

「……うわ、真っ最中だ」
よくもまぁ、こんな朝っぱらからやる気になりますよねぇ、と思わず呆れたくもなるくらい、オーナーは色狂いだ。当人曰く、
『色狂いはステータスだ!希少価値だ!』
だそうで……珍しくありませんよ?それくらい。
兎に角、耳を澄ますとこれでもかと言うくらい水っぽい音が響く、オーナーが相手をなぶる声が聞こえる、相手の喘ぎ声が聞こえる、ギシギシと言うベッドの音は……布団のガサゴソと言う音が代役を勤めていて……あぁもぅ!聞いているだけで妙な気分になってくる!明らかに私が居る場所が場違いな……ってそんな場合じゃない!
私は意を決して、飾りに混ざって良く見えない(いつの間にこんな飾りを買ったのですか……オーナー!(泣))位置にある呼び鈴を盛大に鳴らした。

「オーナー!帳簿付け終わりました!後はオーナーの確認印だけです!ドアに挿しておくので、捺印をお願いしますッ!」

大声で叫んで、部屋の前を去る私。こうでもしないと、あのオーナーは……起きない。寧ろ起きようとしない。ずっと布団の中で宜しくやっている。止められないなら、いっそ思いっきりやらしてしまえ……ただし、水は差す。それが長い間、このオーナーの元で働いてきた私が学んだことだ。
一先ず、次の仕事――各部屋の片付けを終えたあとに、またオーナーの部屋を訪れることにしよう。そう決めて、私はいろんな娘が入っていた仕事部屋に向かうことにした。
もしもやっていなければ……オーナーに殴り込みをかける。
絶対に。

――――――――――――――

「あぁ……これはもう……」
キューブ……じゃなかった。三乗ならぬ惨状。目の前に広がる風景をこれ以外に的確に表現するならば、カタストロフ、パンデモニウム、ヘルズゲート……さらに酷い言葉しか思いつかない……。
「'ゲイシャ'さんと'マイコ'はん以外が酷すぎる……」
今先に挙げた源氏名を持つ二方は、おしとやかにして礼節正しく、乱れても元通りに直してくれるのだけど、他は――投げっぱなしジャーマン。布団は乱れっぱなし濡れっぱなしの甘い香りは付きっぱなし、部屋の飾り落としっぱなし、お酒飲みっぱなしのマイク小道具ほっぽりっぱなし、しかも娘によっては体液で色々と汚しっぱなし……あぁもぅ、もぅ。
「……神様、居るなら運命を恨んでも宜しいですか……?」
これだけの量の洗濯物と廃棄物を前にして、昼前には確実に終わるであろうと考えられる私の家事の実力を下さったことを。そして――そのせい
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6..8]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33