罠と呪いとはわわわわ

「『クロム=ヴェインの魔剣』、か……」
ジョイレイン博物館目録に書かれた文章を見直しながら、僕――レクター・ノレッドは、実際に展示されているそれを眺めていた。ドライアド製の紙を使ったものはそこまで数がないから高くて、いくら編集した自分とは言っても、とても値段的に手を出せる代物じゃない。流石に羊皮紙版の物を買って、そして見ている。
「こうして見ている分には、とてもそうは見えないんだけどねぇ……」
魔剣と称されているわりに、外見はそこまでおどろおどろしくはない。諸刃の剣……とは言っても片方は刃のように見える峰か。形は騎士が持つようなブロードソード。全長は大体ロングソードの平均値くらい。刀身は真っ直ぐ、刃の横幅は平均して成人男性の腕よりほんの少し太い程度。光の角度によってはほんのりと緑が入ったように見える刀身、持ち主だった家のものだろう家紋が入った鍔(一応隠してある。目録にも名前は伏せておいてある)。グリップの長さから、明らかに両手で振り下ろすための武器であることが分かる。
一見壁を壊さなければ取れないのではないかと思われるような展示の仕方をしているのは、実際に取ろうとする人――あるいは魔物が来ることを考慮してのものらしい。
数日前にも……。

――――――――――――――

『アニキー♪』
『おう!どうしたクラブ!』
『アニキ!あそこに立派な剣があるよっ!』
『へっ!御大層にも壁に埋め込みやがって!』
『柔い壁だロ、壊しちまおうゼ!』
『得物で壊せば、罠にも掛かんないダローぜ!』
『アニキの得物、ギガントハンマーで一発バシッてやっちまお〜♪』
『ふっふっふっ……でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

バキン

『――なっ!お……おおお俺のギガントハンマーがぁっ!ちくしょぉ何つー固さだ!』
『あ……アニキぃっ!』
『な……どうしたクラブ!』
『あ……あたい……なんか力が……』
『お……俺も……』
『……なぁっ……!』
『……じ、地面に魔方陣がぁ……』
『な……に……っ……く……そ……は……め……ら……』


(以上、ゴブリン語を翻訳)


――――――――――――――

――という具合に『両左手のギガンタム』率いるゴブリンの盗賊団が御用になったのも、この壁に仕掛けられた罠のせいだったりする。仕掛けた当人は「……ハニートラップ、応用編……」なんて恐ろしいことを宣ってましたけど。明らかに壁を破壊するくらいの衝撃(実はその四分の一くらいでも発動する)を壁が受けると、その周囲10mくらいの地面から『昏睡(レム)』の呪文の魔方陣が浮かび上がって発動する仕組みらしい。
だからいくらイライラしていても、この博物館の壁は絶対に殴らないようにね。たまに主任が遊びで設定させた、セットのデビルバグトラップもついてくるから。まぁ酔っぱらいを黙らせる手段にもいいかもしれないけど……いや、黙らせたい人も寝ちゃうから駄目か。
まぁそれは兎も角、僕は魔剣と呼ばれた剣を、仕事休みの日にぼんやりと眺めていた。凝り性のユキが作った、ミミックバスケットを片手に。
「……呪い、ね」
ユキ曰く、この剣には呪いが掛かっていないそうだ。呪いをかける前に作られたものを、曰く付きの品として壊されるのが嫌だったとある公爵の娘が、親には壊したと偽って、密かにジョイレイン公に持ち込んだらしい。世間的には「クロム=ヴェインのヤローが作ったのはそれだけで魔剣だ!」という意識が主流だから、例え呪いを掛ける前の物でも、魔剣、あるいは曰く付きの品として壊される。
……それにしてもよくもこんな物を載せる気になったものだ、と呆れてしまう自分がいた。マトシケィジの父親にしてジョイレイン家公爵、マジュール=ジョイレイン直々のお達しらしい。子息二人が「親父(父上)には叶わねぇ(ない)」と漏らしているのは、最早有名な話だったりする。下手をしたら展示品を全部壊されるかもしれないというのに……凄い人だ。噂ではクロム氏の呪いを呪文化しろとも公爵専属の魔導師に頼んだらしい。理由は『面白そうだから』……何という。そのせいでユキが駆り出されたりしてるけど。
話が脱線したので元に戻すと、呪いが掛かった品でもないのに、どうしてここに飾るのか。誰もが疑問に思うことだろう。その呪いを知ってもなお、同じことを思うだろう。(一応、斬らない限り呪いはないと目録と紹介文には記している)。
でも、僕には解ってしまうんだ。『面白そうだから』という理由に隠された、公爵の真意が。
それは――。

――――――――――――――

「――命を削る、覚悟……ね」
久しく磨いていなかったから錆びてはいないかと思ったけど、切れ味は元のままだ。最初に実験として誰か――いや、何かを斬っ
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