グラバンマ=バッギーグ、という人物をご存じだろうか。
'花火伝来の祖'と言われる、太古の魔導師だ。
戦いにおいて威力を求める風潮があった時代。敢えて'派手さ'を求めた変人として語られることも多い彼だが、その来歴や人生については謎が多い。その弟子の直系である'炎爆者'クオルン氏すら、大して知っているわけではないという。秘伝書(と言うほどのものでもないらしい。どうやら古代からの花火魔法の使い方とその魔力の集中法が載っている本だという。無論門外不出だ)にも、太祖の事は殆んど書かれていないそうだ。
ただ一つ、彼に関して書かれているとすれば、それは彼がジパングに居たときに共に過ごした女性について、彼が一言だけ書き記した言葉だろう、と彼は言う。
『ジパングにて共に時を過ごした、親愛なるハルカ=サクラギに捧ぐ――』
その言葉の次には、直ぐ様魔力の集中法が書かれているそうだ。つまりこの魔力の集中によって、彼はその女性に何かを贈ろうとしたらしい。
では何を贈ろうとしたのか?残念ながらクオルン氏はこの内容を明かすことはなかった。代わりに、一枚のチケットを私に渡した。
それは、この度行われる領主合同納涼祭での特等席チケットだった……。
--------------------------------------------------------------------------------
ハギ=クラマは、ジパングの農民の倅として産まれた父と、大陸から来た母の元に生まれ落ちた。身分が厳格で、農民は農民にしかなれない世界で、父親もまた農民としての将来が運命付けられていた……筈だったが、それを嫌った父は父親に自分を勘当させ大陸へと渡り、ジパング文化を研究していた母と祝言を挙げた。
その後、大陸で産まれた彼は、母親の研究の影響で大陸語とジパング語を学び……10才くらいの頃に親子三人でジパングに滞在することになった。無論、父親の故郷は避けて。
季節は夏。照らす日差しが苛烈な時期だった。
--------------------------------------------------------------------------------
夏と言えば水遊び。それは水がふんだんにある地域で共通のようだ。当然、ジパングでも。
「わぁ……」
父親に連れられてやって来た水場。日がそこまで高くない時間にやって来た筈のそこには、すでに大量の来客がいた。
主に親子連れ。子供達はみな褌一丁(ただし女の子はそれに加え胸にサラシを巻いている)で、親に言われた安全な地域のギリギリのラインまで広がって遊んでいる。
だがそれよりも驚いたことは、子供達に混じって、魔物の子供も一緒に遊んでいた事だ。
『ジパングではこの大陸と違って、魔を徹底的に排斥するような文化があまり根付いていない。これを世間では野蛮と謗るだろうが、ジパングは大陸と違う方向に文化を発展させたのだと考える方が理にかなう。
そもそも、文化の根底が、発生点が違うのだ。大陸における中央教会に当たる宗教がこちらには存在しない。アニミズム信仰――万物霊長に神は宿るという多神信仰が彼らの根底である。
繰り返すが、彼らは決して野蛮ではないのだ。この大陸を理解するに当たり、その前提を忘れてはならない……』
彼の母は、後に『ジパング考察』という一冊の本を出す際に、こちらの一言を入れるか否かで教会と一悶着起こしかけたという。無論論拠となる魔物云々を別の文章に変えて何とか事なきを得たが。
兎も角、一部の為政者と退魔師を除いて、一般民衆にとって、共存する限りは彼らは同胞たり得たのだ。
大陸で暮らしていたハギにとって、この光景は衝撃的であり、そこでようやく両親の言葉の意味が分かったのだった。
『ジパングの田舎は、大陸の都市とは違う世界と思いな(さい)』
これが両親の発言である。短いが、これ程までに的を射た発言というものもないだろう。
産まれて初めて感じたカルチャーショックに興奮を覚えながら……しかし田舎特有の村意識の存在を関知して周りの子供に溶け込むことは出来ない彼は、一人周りと離れたところで水遊びに興じる事にした……その時だった。
「おお!異人さんがおるね!」
「!!わわっ!」
何の脈絡もなく、背中で大声を出されたハギは、ビックリして尻餅をついてしまう。胸元まで水に浸かりつつ、声の主の方に視線を向けると、そこには瞳を興味津々そうに彼に向ける、一匹の河童がいたのだった。
年齢は、恐らくハギと同じ10才ほど。人間とは違う緑色の皮膚は、水に濡れてどこか艶かしく光り、両手両足の指の間には、薄い膜(水掻き用)が張られていた。
胴体は基本的に甲羅に覆われているようだ
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
16]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想