「ムク〜?」
「何ですか〜?ご主人様」
おぉ、呼べば答える新機能。ってのは冗談として、俺は上半身を首元から顔にかけて凭れかからせているメイド――ムクに何気なく尋ねた。
「今月に入ってのミミックの披露宴、何回だ?」
ムクはんん〜、と考える。時おり指折りしては悩んで……指を折ってから悩むなよ。何なんだ。違う集まりでもあるのか。
「ん〜、まぁ1回ですね〜」
あるらしい。明らかに指は三本以上折られている。
「……存外少ないのな」
まぁ当然だろう。あれだけ綺麗な箱だ。毎日の生活が必死な冒険者にとって美術を愛でる暇があったらそれを売る方に走るのも無理はない。あるいは中身を得ようとしてハニートラップに引っ掛かるか。
「まぁ中には一つしかない箱に余りにも箱を飾り付けし過ぎて、美術館に飾られている仲間もいたりするわけですが」
魔法結界の中、箱を開けられずしくしく泣いている姿を想像し、俺は心の中で合掌した。そりゃそうだ。下手したら一ヶ月以上あの中って、世ミ協の規則すら満たせねぇ状況じゃねぇか。
「親切丁寧に拭いてくれる館員さんとお近づき寿したいらしいですが、魔物専用の魔法結界のせいでそれも無理だって、ミミック次元で私達に泣きついて来たりもしましたし」
「……助けてやらないのか?」
流石に俺も気の毒になってきたんだが。
「魔法結界がある限り無理です」
「だよなぁ」
美術館からしたら、魔法結界がなければ扱える物が減るからな。そりゃ仕方ない。不用意に触った客が魔物に連れ込まれよう事態になれば当然責任を問われるだろうし。
ミミックにしろつぼまじんにしろ、わざわざ中身を覗いたりする奴がいるから始末に負えない。注意書すら読めないのか。
「……」
そう言えば、留守を頼んだ娘は元気にしてるだろうか。今はムクが擬態した金庫に入ってもらっている(重たいからそうそう持ってかれない、泥棒が狙いやすい、鍵が外付けの南京錠で、弱点となる変化した鍵穴がない。つまり中から追い出されないため子供ミミックは大体そこに入れられる)が、親心として心配だ。
巣立つ時になったら、恐らく俺が先に寂しくなるんだろうな……。
………っとそんなことより。そろそろ本題に入ろうか。
「待ち合わせ場所はここだ……よな?」
俺は地図を取り出して辺りの風景を確認する。前方、つまり北側には緑々とした山。そこから流れる大河は大まかに西の方へと進んでいる。東は……遥か遠くに黒い雲が見えるのが魔王城らしい。
で、今とある宿場町の門付近で待ち人をしていたりする。これからの冒険でパーティを組むことになったのだ。何やらそこそこ有名なバウンディハンターらしいが……。
「……を、あれかな」
ようやく見つけた。俺は遠くに見える三人の影を確認し、手を振った――と同時に、回避行動をとる。次の瞬間、俺のいた空間を、獣じみた手が通過した。すぐさままた回避する。別方向から振り下ろされた拳が巻き起こす風圧が俺の髪をはためかせる。
ここでようやく俺は相手の姿を確認することが出来た。鋭い爪とふさふさの毛に覆われた手足に、尾てい骨から生えた尻尾。髪の毛と同化するように頭から生えている、犬のような――狼の耳。間違いない。ワーウルフだ。
それも二匹。一匹は野獣の本能を五割程減らした――それでも闘気剥き出しで俺を見つめている。もう一匹は……狼と言うより飼い犬といった雰囲気だ。何処と無くボールや毛玉で遊んでいるような、じゃれ合う目線で俺を見ている。……っで、奥の方の男が相変わらず立ったまま動かない、と。手出しはしねぇわけだ……ん?
ヒュオンッ!
お……男の姿が、消えた……!?
ゴゴッ!
鈍い音が立て続けに二回起こった。どうしたと一気に視線を手前に戻すと………?
「……ヴァン、お前いきなり『腕試しっぽいことしようぜぇ?』とか言いながら駆け出すな。ノアもヴァンとのフォーメーション練習じゃないんだから抑えてくれ。じゃれ合うのは後にしような」
「「きゅう〜×2」」
「……」
脳天に拳骨を食らって、頭を抱えて蹲るワーウルフ二匹と、煙が立つ拳を握り直している、狩人姿の筋肉隆々とした男。――あ〜、確かに有名だわ。
「……まずは二人の非礼を詫びよう。本当に済まない。再三言い聞かせた制止を振り切られたんだ。全く……」
『人狼を超えし者』ガラ=レギーア。バウンディハンターには珍しい、素手での格闘をメインに扱う人物だ。二つ名の通り、嘗てワーウルフを伸したことがあるらしい。
「「きゅう〜×2」」
……まぁ、あれを見れば真実だって分かるがな。種族特性的意味で。
「……まぁ冒険者やってる以上は危機管理も大切だ。出会い頭に襲われるたぁ思っちゃいなかったがな、ハハハ……そもそも本気じゃ襲
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