どうも、初めまして。
この度話をさせていただくことになりました、ニカ=イジュネスカ=ラディウスです。
母……義理の母はラン=ラディウス。この温泉宿とは名ばかりのラブホテルの番台を勤めている、妖狐です。しかも尻尾が九本もあります。
あ、私は人間です。母が特製のお札を小さな頃から付けてくれていた上、少しずつ濃度を上げて淫気や妖気に慣らさせていったので、宿の従業員さんの――下手をすると全魔物の――妖気や淫気が殆ど効かない体質になったお陰で、今でも人間やっています。
母は「貴女を妖狐や他の魔物にしたくないの。それに……私やオーナーみたいな色狂いにもさせたくないからね」と、ある意味妖狐らしからぬ考えの持ち主です。理由は数年前、母の口から直に耳にしました。
その情報を聞いたとき、わたしは泣きました。泣いて、泣いて……飽きるほど泣いた後で受け入れました。
『廃墟ネグーム』。私が幼少期を過ごしていたであろう土地は、現在はこのような名前で呼ばれています。親魔物派と反魔物派、二つの勢力が互いを殺しあった結果、そこには何も残らなくなってしまったのです。今、その土地にあるのは、数多の亡霊(人間の魔導師が説得中)と主な建物だけ……。
以前宿の人に頼んで連れていってもらった時は……あまりの寂しさに呆然としてしまいました。記憶との違いどころか、整合している部位を探すことの方が難しい有り様でしたから。
……ですので、せめて私は、形に残らなかったネグームの町を、形に残そうと、それも人間である自分が形に残そうと筆を進めています。あのジョイレイン地方出身の作家であるニージュ=ロンゲート氏が本を出しているナドキエ出版が、アシスタントを付けて下さったりして。
それが母の思いであり――私の想いでもありますから。
話が重くなってしまいましたので、別の話をしましょう。
デルフィニウムに一体何人の店員が居るのか?それを気になっている方がわりといらっしゃるそうです。まぁ皆さん気紛れと言えば気紛れな節もあるので、全員を確認する機会なんてそうそう無いですからね。
今回、母とオーナーの許可を頂いたので、主な方々だけですが早速紹介してみます。
・'オーナー'ハンス=エイシアン
この宿『デルフィニウム』の支配人で、九尾の妖狐さんです。
恐らく暇があれば誰かと交わっているほどの色狂いな方で、母もよく氏の尻尾に捕まっては弄ばれています。
来歴は不詳ですが、旦那さん持ちだそうで、よく出来た息子さん(無論ハンス氏が産んだそう)に家督を譲ってからは、わりと毎日のように通っていらっしゃるお客様だとか。
妖気淫気もトップクラスで、氏が全力を出した時は、数日間母が色々な意味で帰ってきません。まぁ、その時は店は休みなのですが……これでいいのか、宿経営。まぁ利潤は出ているらしいですが。
……にしても母は、オーナーの事を何故おねぇさまと呼ぶんでしょうか……。
・'番台さん'ラン=ラディウス
雑務全般を受け持つ、私の義理の母です。実質ちゃんと宿屋の店員らしく働いているのが母だけだったりして……。
元々は人間だったそうなのですが、オーナーに憑かれて交わられて交わった結果、妖狐になってしまったそうです。
番台服の裏に、自身の妖気や淫気、並びに性欲を抑える札を何枚も貼り、自身の魔力を動力にする術式を組み上げることで、普段は妖狐特有の妖気・淫気漏れを抑えているみたいです。無論、故郷の村に帰るときにも札を外すことはありません。
以前……宿の中でオーナーの悪戯で外されたときは……それはもう。厳重封淫されている私の部屋の中で、一週間通しで淫行の宴を象徴する音が響き渡って……溜まりすぎです。
・'ゲイシャさん'ミナエ=ジョウレン
ジパングの文字では『浄蓮 美那江』と書く、ジパング出身の女郎蜘蛛の店員さんです。宿の皆さんの中では常識的で礼儀正しい――そう母は日頃漏らしています。
肌触りの良さが特徴であるこの宿のタオルは、基本的に氏が織っているそうで。あとはお母さんやオーナーさんが着る着物は、基本この方が織っています。柄含みで。
あ……あと、夜も礼儀正しいと言えば礼儀正しいのですが……何と言いますか、言葉が妙に辛辣です。所謂慇懃無礼、という感じでしょうか?私もその舌鋒の被害を受けましたが……凄まじすぎます。あらゆる方向から尊厳を崩壊させていくその論説。
・'マイコはん'アマテ=オヂヤ
礼儀正しい店員二人目(母親談)の、ジパング出身の雪女さんです。『小千谷 天手』さんと書くそうです。
氏の部屋は……はっきり言って寒いですが、愛する相手には暖かくなるよう工夫が施されているようです。流石にどのようなものかは聞きませんでしたが。
意外なことに板前も出来るそうで、氏の作る御作りや刺身、寿司は絶品です。尤も、店員さんはその料理すらプ
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