『妹のテントでポトフを食す』

料理人たるもの、食材には拘るべし。それは口にするのが馬鹿らしいと思われる程基本的なことだけど、意外と実行するのは難しい。
アントアラクネ御用達のうまみ調味料なる万能の繋ぎがあるのは確かだけれども、その旨みが材料の旨みか、と問われて果たして何と答えるかしらね。まぁ辛み付加のためにデスソースぶっ込んだ私が言えた義理じゃないけどね。
「ん〜……」
で、どうしてそんな始まりかっていうと、今まさにそんな材料集めをしている最中なのだ。目的はアウリアークの数年後の新メニューに、アルスと互いに提案した、"お土産料理"の為の食材。
『たまには、こういう事をしてみませんか?』
そんな彼の一言と共に始まった、料理対決。旅先で見つけたものを、工夫して料理し、それを互いに採点するというなんとも仲が悪くなりそうな対決だけど、料理好きな二人で、彼自身もっと料理がうまくなりたい人だから、私はそれに全力を以て協力する。中辛くらいの舌鋒で改善点があれば指摘するのよ……ふふ。
……で、魔界の近くで、魔力の少ない、比較的魔力抜きがしやすい食材を探してはいるんだけど……中々無いわね。と言いますか、虜の果実がどっさり積まれていたり、ハートの実が穫られた陶酔の果実が格安で売られていたり、割と市場の一部が魔界侵食受けまくっているじゃない。
野菜は……この辺りは何が特産かしら……あ、まかいもゲット。魔力がないから一般人にも食べさせられる優れ物よね。これは個人的な保存食にしましょう。味的にこれは……芯まで染み込む塩味とほっくり感が魅力のタイプかしら。ホルスバターとの相性は高そう……だけど一般のバターの方がいいわね。濃い味に濃い味だと参っちゃうし。
ん〜……あ、この野菜見たこと無いわ。外観的にしなっとしているように見えて、その実、水分はしっかり行き届いているレタス。クラウディレタスというらしい。ちょっと試してみよう。魔力はないから、この地域特産かもしれない。あ、他にも苺のようなトマトや割とハードなチーズもある。購入して確認しますか。
後は……。
「……」
……明らかに魔力が入ってたから、見なかったことにしよう。先端の窄まり方がリアルな胡瓜とか、穴の開き具合や隆起、そして浮き出た血管等太さ以外がリアルなズッキーニとかは。それぞれ包胡瓜とマラッキーニというらしい。何というか、刃を入れたくない野菜だわ……。
この魚は塩漬けが良いかな……そう言えばちょっと前に川で水しぶきを高くぶち上げながらジャンプして地面に降りるという見事な肉体芸術を披露していたサハギンがいたわね……。「……今一つ。もう一回」とかぼそりと呟いていたけど、20メートル弱を平然と越えているのに不満って……最高記録どれだけなのかしら。

とか何とか、時折思考がずれつつも私は市場を満喫していたわけですよ。でもコンセプトを決めずに買い物をした所為で、メニューが定まらないわけで。
「ん〜……次はどんなメニューにしようかしら……」
山に積まれたピーマンを前に、購入した物をマイバッグの中に入れた私は考えていたわけだけど。
……とたとたとたとたとったっとったっ
「……?」
何か足音がこっちに近付いているような。歩幅はそこそこ小さくて、十にも満たない子供か、或いはゴブリンとかの小柄な種族か……と、何気なく横に目を向けた私が目にしたものは。

「――ロメリアお姉ちゃああああああああんっ!」

喜色満面に私に向けてダイビングタックルを仕掛けてくる妹の姿でした……って!

「ん?あ、アメrうわったあっ!?」

あっ、あぶなー……咄嗟で偶然だからアメリを受け止める体勢が出来てなかったわ……。咄嗟に重心移動して受け止めたけど、下手したら足滑らせて転ぶところだったわ……。
そんなアメリの後ろから駆け足で近付く影が一つ。ワーシープ。旅の同行者なのかな?
「……知り合いなのアメリちゃん……っていうかなんでいきなり飛び付いたの?」
ワーシープの娘の質問に、笑顔でアメリは答える……んだけど。

「うん!ロメリアお姉ちゃんだ――」

ってまずっ!?
「――むにゅ!?」
「しーっ!」
ちょっと今この場で本名をバラされるのは私的に困るので口塞いで強制ミュートさせていただきました。ごめんアメリ。
「えっと……どうしました?ロメリアさんはアメリちゃんの知り合いですか?」
「え、ええまあ……」
不思議そうにワーシープの娘が私に聞いてくるけど、まぁそりゃそうだろう。何せ端から見れば幼女リリムを一般女性Aが口封じしている光景でしかないわけで。そこ、リリムに触れて平気な時点で逸般人しているとか言うな。
もがもがもごもご何か言うアメリの口を解放すると、アメリはちょっと不思議そうな表情を浮かべてこっちを見た。
「――ぷはっ。えっ……何、ロメリアお姉ちゃん?」
怪訝そうな表情。でも
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