『'板返し'にて伝統のお好み焼きを食す』

昼と黄昏の合間のような橙の光の下、割と使い均され、反発が少なくなった畳に、私は尻を降ろしていた。足は目の前にある木製の長方形テーブルの下に開いた堀のような空間に入れている。
テーブルの中央には断熱効果と衝撃吸収を兼ねた、スライム族の成分を元に作られた物質を境界に、無骨であるが故に完成されている鉄の板が視界の空気を幽かに歪ませている。
そして、私の手元には、霜の張った中ジョッキに、並々と注がれた泡立つビール……うん、液体と泡は、七対三だ。店主、よく分かっている。
「……」
私は横を見る。私と同じようにビールを注がれたジョッキがあり、それを持とうとする、色とりどりの羽が見られる。その持ち主の視線は……全て私……ではなく、その横にいる、一人のブラックハーピーに向けられていた。他の色とりどりの羽の何れよりも黒く、そして艶やかな毛並みを持つ彼女は――その羽に隠した三本爪でジョッキを握り、高く掲げた。

「――では、只今よりオフ会を開始します!皆さん、乾杯!」
「「「かんぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!」」」

「〜〜〜っっっ!!」
で、でかっ、叫び声でかっ!迫力ありすぎ!だからこの店貸し切ったのか!そりゃこれは他のお客が居たら迷惑かかるわね……あぁ、耳がジンジンするお……。
とはいえ、宴は始まった。私もまた彼女達――『黒羽同盟』の宴席で、まだ冷えているビールの入ったジョッキを、ぐいっと傾けたのだった……。

――――――

『黒羽同盟』。
この名前を聞いたときの反応は大きく四種類に分かれる。まず一つは『何それ』。まぁこれは知らないだけだからいいんだけどね。二つは『胡散臭い集団』。これもあながち間違っていないのが泣ける。三つは『明らかな敵』という認識。……それはまず思う側に問題があるのが大半だ。最後に『自らの正義感に従う謎の戦士の集団』。……これに関しては半分は違うと思う。彼女らは戦士なんかじゃない。それは間違いなく言える。彼女達を称するなら……そうね、諜報員かしら。
ブラックハーピーの持つ井戸端種族情報網と、カラステングの持つ閻魔帳という名の公式情報網、さらにセイレーンのファンたれ込み情報だけでも十分なところに、ハーピーの聞く商人の動向に、コカトリスの地上からの土地勘(他のハーピー族は基本上空からの俯瞰図なのよね)を合わせれば……大体どんな物も追跡可能という恐ろしさよ。
『平凡な恋愛をし、結婚したごく普通の男性カールとごく普通なハーピー族エイミー。でも一つ違う事があるとするならば……なんと、エイミーは諜報員だったのです!』
がリアルで成立しているのよ。しかも下手をしたら魔王軍の一部の情報処理班よりも情報握っているんじゃないかしら?それでいて人数不透明ってどれだけゲリラ的なのよ。このオフ会だって全員じゃないのよ?全く、どこのだらだら過ごす集団なのよ……。まぁ、だからこそ色々なお店の情報が集まってくるから、私としては嬉しいんだけどね。
で、何で私がそんな集まりの中に混ざっているかというと……。

――回想――

「オフ会開くから、『同盟』の娘をさ、ジパングにまで送って欲しいんだけど」
「何人くらい?」
「ざっと十強か、限界で二十くらいかしら。先着二十名の参加表明が現在十二人、迷っているのが五人ほどだからね」
「場所は?座標設定は早めにやりたいんだけど」
「お好み焼きと飲み屋の"板返し"。細かい住所はジパングの神有國の……追って連絡するわ。細かい座標が必要だろうし」
「料金はどれだけ?」
「?それは送迎主の貴女が決めるんじゃないの?」
「運賃じゃなくて、店の料理の値段よ。送迎主である私としては、是非とも料理を味わいたくてねぇ……ふふ♪」
「んー……ジパングも共通通貨じゃないから合っているかは未知数だけど……一枚につき魔王銅貨四枚〜八枚くらいじゃないかしら」
「あらお手頃ね。ねぇ、私も参加していい?」
「……メンバーを送り返して貰いたいから、お酒の量は控えてもらうけど構わないかしら?」
「良いわよ。アルハラはそれとなく避けるわ」
「了解。じゃあ参加者一名プラスで予約を進めるわ」

――回想終了――

……ってことがあったのよねぇ……。そりゃ食事所と聞けば私が行かないはずがないわけでして。異文化交流異文化交流。
「……でさー、〇〇の町の☆☆なんだけどさー」
「あぁ、あの噂なんだけど、どうやら彼女を快く思わない■■が……」
私が異文化交流を待ち望む中、黒羽同盟の面々は既に挨拶を終え、交流に勤しんでいる。扱う情報は、いつもの事ながら一体どこから仕入れてきたのよ。さっきから挙げている名前ってどこぞの国の大臣レベルの重鎮じゃない。
「……あぁ、この画像なら▼▼領の英雄像前から東7.65キロに北5.73キロ地点にある、☆☆氏所有の別荘を背に近くのテニス
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