『茶所"豊泉"にてブルーベリー大福を食す』

「……ふぅ……」
吐く息が適度に白くなる、幽かに雪がちらつく、ジパングの一角。手袋越しに息を吐きかけつつ、私は白化粧が完了した街並みを眺めながら、一人歩いていた。
場所は宵乃宮。前回来たときは確か去年の残暑厳しい秋だったからまだ半袖の人は見られたっつか半袖だらけだったけど、流石に今回はそれは見られない。代わりに見られるのは……。

「くらえー!」
「きゃっ♪やったなーこのこのー!」

……厚着した子供達による雪合戦だ。子供は風の子元気な子ね。雪のバリケードも作ったりして、回避と攻撃を繰り返すリトル・リトルウォー。石を混ぜる子も中にはいるらしいけど、ここには存在しないみたいね。いいことよ。


『たろ〜をすやすやねかしつけぇ〜♪
こんやもしらゆきふりつもるぅ〜♪
じろ〜をすやすやねかしつけぇ〜♪
こんやもしらゆきふりつもるぅ〜♪

ア、そ〜れ♪
え〜いや〜らや〜れさっ♪
え〜いや〜らや〜れさっ♪
え〜いや〜らや〜れさっ♪
ほっ♪ほっ♪ほっ♪

ア、そーれ♪
え〜いや〜さや〜れさっ♪
え〜いや〜さや〜れさっ♪
え〜いや〜さや〜れさっ♪
ほっ♪ほっ♪ほっ♪

……」

……屋根の上ではこれまた厚着をした男達が歌いながら屋根の雪下ろしを行っている。場所によってはこれをしないと雪の重みで潰れるらしいから、この作業は必須なんだろう。よく見たら大人達に混じって一部の子供達が協力して雪下ろしを手伝っている。こうやって生活に根ざした文化は継承されていくのだろう。……でも今のままだと雪の降ろし手が不足するんじゃないかしら?なんて私の思いは、割と女達もこの作業を手伝っていることから別に問題ないことを理解した。あ、狐尻尾で無精した妖狐が一人屋根の上を雪と共に滑り降りて……あらら。雪溜まりに肌色の雪ダルマが。
「……ふふっ♪」
流石に青姦をするような猛者がいないのは良いわね。この風景が興醒めの代物になっちゃうし。……まさか雪の中でやったりしてないわよねぇ……まぁ、それはないと思いましょうか。
ちらちらと舞う粉雪が、私の肌に触れてはちょっとちくっとする痛みを与えてくる。きっと手袋を外したら割とすぐに霜焼けになってしまうでしょうね。……と可愛い娘ぶって言ってみたけど、そこまで私、ヤワな体はしていないわけで。風情が大事なのよ、格好も風景も。
「……まぁ、こう見てみると、何処も冬の街は変わらないものねぇ……」
……うん、魔界化した土地でも似たようなものだったわ。精霊の力を使ったり魔力を使ったりして雪掻きしたり、子供達は雪合戦。オーガやアマゾネスは張り切って屋根の雪下ろし。たまに雪上セックスをしている雪女さんとかダークプリーストとかもいたりしたけど、それは例外。あくまで例外よ。あれがノーマルスタイルだとは認めたくない……。
なんて余所事を考えつつ、すっかりしっかり閉ざされた家々の戸を横目に雪の中をまっすぐ歩く私。傘でもくるくる回したらそれっぽい風情が味わえたかもしれないかしら?……でもああいうのはおしとやか系の性格の娘がやらないと無理ね、合わなすぎる。少なくとも私のような食欲に忠実な大食らいがやることじゃ……?

「……あれ?」

ふと、私の視界に見覚えのある影が……というか……あの耳に、ちょっと厚着だけど間違えようのないスタイル……妖狐。尾の数は……雪の所為で見づらいけど三本あるわね……。確か『あの店』の店長も尻尾は三本だった筈……。
と、向こうの影が止まり、私と同じように何かを思い出そうとしている格好をする妖狐。ここからは歩数と記憶力の勝負ね……当然、先に叫び声をあげた方が勝ちの勝負。正直私はあまり自信がない。知り合いとかなら兎も角、一度店で感動を味わっただけだと……ねぇ。
一歩、一歩。雪が先程よりもやや強くなったこの宵乃宮で、私達は互いを視界に納めつつ……確信を得るべく歩き近付いて――。

「――あぁ、やっぱり一度ご来店されたリリム様じゃないですか!」

――負けた。そしてやっぱり予想はしていたけど正体ばれてーら。
「……"狐路"の店主様、その節はどうも」
美味いもの食わせていただきましたっ、とは流石に言わない。それを言おうものなら躾に厳しい姉の一人からお説教を頂くことは半ば既定路線だからだ。
「いえいえ、私はお客様を心からおもてなししただけですから。美味しく味わっていただけただけで、料理人冥利に尽きます」
ぺこり、と丁寧に頭を下げる店主。その一つ一つが洗練されている。素敵だと思った。『おもてなし』を真に実践する人は普段の他者に対する立ち居振る舞いにも現れるというけど、まさにそうじゃない。
こちらこそ、と頭を下げると、そこでようやく互いのお辞儀合戦は終了した。まぁこの寒空の下、長居する場所でないのは確かよね。
「ところで、この冬の宵乃宮にリリム様は」

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