近くなのに遠く響く、さらさらとした砂擦れの音。波の寄せては返す浮気性な習性に玩ばれる砂にちょっとした同情を覚えるのは魔物の性かしら。少なくとも魔物娘は大概一途だもの。あのハンスだって、“旦那”とはぉヴぇぉヴぇよ?LOVELOVE愛を叫ぼう、愛を呼ぼう。
「……ん〜っ♪」
嗚呼、青い空、遠くに見えるは雄大な積乱雲、耳を澄ますと波の音やうみねこの声と共に聞こえる、恋人たちの逢瀬……にしては妙に生々しい音がちゅばちゅばばっつんばっつん聞こえてくるのは仕方ないことね。それは敢えて耳を塞ぎましょ。青姦は私の趣味じゃないわ……の割に外でいろんな人を逝かせている記憶やいろんな魔物にヤられている記憶が多いのは……目を瞑りますか。
燦燦と照らす、ヴァンパイアが死んでも嫌がりそうな太陽の下、ビキニ姿の私はパラソルの下に用意したベンチで一伸びした後、手にした氷の浮く仄かに乳白色をした透明な液体を一口、舌先で躍らせてからそのまま飲み込んだ。グラスに顔を近づけた瞬間から芳醇に香る南国の香りが、体全体に染み入って広がっていく感覚に、私は体を伸ばした。太陽とは違う内なる炎によってぽかぽか火照っていく体……最高。
「……そんなGreatなmindに合わせるように、耳にするBGM(not嬌声)is Reggae……」
「……出来ればそれはサンセットのときにお願いするわ、“DJ”」
そんな私の隣で、同じようなスタイルで甘酸っぱい、寧ろ酸っぱ甘いシェリーをロックで頂いているのが音狂いサキュバスの“DJ”。右胸の辺りに青地に沢山の黄色い星模様が描かれた、赤と白のストライプが目立つビキニスタイルである。真っ黒なサングラスをかけて濃い紫の液体を飲み干すその姿は、さながらスーパースターかセレブを思わせる。そして例によって首にはヘッドフォン、寝転がっているベンチの下には今まで作ったり買ったりしていた音楽スクロールがびっしり入っている箱が設置されている。前に中身を見せてもらったけれど、ちゃらんぽらんそうな外見に反して意外と整頓が行き届いていたのにびっくり。当人曰く、DJとしてのたしなみというか流儀なんだとか。私にとっての料理器具みたいなものね。
「Oh…YouのいうとおりだYo.」
やや残念そうに、でもそれは仕方ないなといったニュアンスでそう言うと、‘DJ’はヘッドフォンの繋がる先にあるスクロールを入れ替えた。幽かにヘッドフォンから漏れる音楽が変化する。このリズムはサンバか。
どうでもいい事かもしれないけれど、そのオーバーテクノロジーめいたその物体はいったいどうやって開発したの?以前聞いたら「“趣味人”にOrder出したら作ってくれたYo!」などと口にしていたけど、明らかにこの大陸でもジパングでも、恐らく霧の大陸にも存在しないデザインや物品のアイデアをどこから仕入れてきたのかが気になるんだけど……とはいっても、≪ここではないどこか≫の存在を私は知っているし、そこにアプローチをかけようとしている姉様や妹達も何人かいることが分かっているからなぁ……。できればそこの料理文化まで犯されないことを祈ろう……デルエラ姉様を考える限り無駄な祈りだろうけど。
適度にチクチクと刺すような熱とともに、さらさらとした感触を伝える足元の砂。寄せては返す波に湿った部分すら、数分後には太陽の熱で完全に乾くそれを踏み締めつつ、ほんのりアルコールの混ざるココナッツ風味の息を吐いて、私はベンチから飛び降りた。やや怪訝そうな目……は視線含め分からないから気配を投げかけるDJに、コインを一つ親指ではじいて渡しつつ、人々の声が響くビーチの方向へ目を向ける。ん〜、さすがに昼前までぶっ通しでヤるのは滅多にいないだろうし、そろそろ準備しても良いかな?
「……こんなResortでもWorkin’なんてねぇ」
何とでも言いなさいDJ。海といえばそれを盛り上げる店舗の存在は不可欠!特に特別仕様ぼったくり価格で観光客などにサービスを提供する“海の家”は風物詩兼オアシスなのよ!あぁ、あの独特のジャンクな風味の焼きそばにカレー!照りソイソースのもろこしにバターポテト!!っといっても私が食べるわけじゃないんだけどね。寧ろ私は食べさせるほう。このビーチの海の家“Auli Ark”の店主の一家とは10、いや、下手したら100年来の仲なのよね。で、数年に一度『あること』を条件として私が手伝うことになってるってわけ。
「ふふ……ふふふ……!」
そう、数年に一度のこの日のために……私は新メニューを新素材ごと引っ提げて来たのさ!待っていなさいよディオナ!今回も思いっきりサプライズさせてあげるからね!
……というか、私に呆れているDJも大概よ。夜にこのビーチで行われる『オールナイト気分最高峰系フィーバーパラダイス〜ヲトメハヨルニセメルベキ〜』の
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