第五回 「医療サバト」

 ある種の強い共感性は、そういう年代の女児に特有で、人や動植物、器物問わずの「痛そう」への感受性が高い。彼女らの優しさは、医療への素朴な使命感に繋がることがある。「お医者さん、シスターさん、お薬やさん」は、今年も10代の女子の職業希望上位に入る。

 だが、当たり前だが、専門知識の習得や機材への費用を鑑みると、そんな夢を果たせる者は少ない。サバト(追記1)は、「幼き少女の夢を叶える」ためにある。我々は、彼女らの素朴な魔法への憧憬と未来への希望、そして道徳や既存の規範に縛られない可能性の追求を応援する。

 そもそも、かの悪名高き「魔女狩り」で標的になったのは、ある主の「共同体に距離をおく医療者」(追記2)であったというのが定説だ。我々が、彼女らの支援者になるのは必然とも言えよう。

というわけで、今回は「医療サバト」ことグレイリア・サバトについて紹介していこう。

概要:「ドクトル・リトル」の異名を取るグレイリア博士が創設したサバト。私的な理由で魔道研究を行っていることが多いバフォメット界隈において、彼女は異彩を放つ。なぜなら、「傷病者を治療する」ことに重点を置くからだ。"種族や宗教なき医療者"という理念は、国や教団の手の届かぬ民草を受け止める網となる。私も見習う部分が多い。

魔女コレクトラ(以下コレ)「本日は取材にご協力いただきありがとうございます」

魔女ミドゥサーヌ(以下ミドゥ)「こちらこそありがとうございます」

ペシアンお兄さん(以下ペシ)「ご招待ありがとうございます」

コレ「お二人は、元々主治医と受持ち患者という関係だったとか」

ミドゥ「ええ。お兄さんは、元々飛空艇の乗組員をされていました。彼の乗艦が大破し、不時着したところを偶然にも弊サバトが通り掛かったのです」

ペシ「お恥ずかしながら、彼女らの結界(追記3)に助けられ墜落を免れるだけでなく、我々の治療と予後の監察まで至れり尽くせりでした」実際、治療後も何かにつけて、院内に留まろうとする者が続出するそうな。

コレ「では、お二人は治療後に使い魔契約を結ばれた?」

ミドゥ「はい。お兄さんは、元気になるなり『君に恩返しができるなら何でもする』とおっしゃってくれました」頬が赤らむ。

コレ「えっ!それは…とても素敵ですね!」私の魔女様は、賢明なレディだが、やはり"女の子"だなと感じる。恋に恋する姿はただ愛おしい。

ペシ「いやはや…しかし、オレはまあ食うに困って兵士やってた身で、こんなに親身に付きっきりで看病なんてされたことなかったし」彼の顔の傷や、節くれだった手指が、その来歴を物語る。

ミドゥ「しかし、私は当たり前のことをしたまで。それほど恩義を感じ、感謝してくれたのは、お兄さんの人柄でしょう」

ペシ「ほんとに、オレにゃ勿体ないお医者様だよ」二人の表情には確かな絆があった。

コレ「うひゃあああ!…はっ、いけません。そういえば、飛空艇団は再編成し、今ではサバトに協力しているとか」

ペシ「ああ。オレらは職業柄戦争の気配には敏感でね。返礼も兼ねて、サバトの白魔女さんらを乗せて行くようになった」

ミドゥ「私達は協力して"ショック・メディック"(追記4)という方式を始めました。負傷者へすぐ駆けつけて、応急処置できるように」

コレ「まだまだ、興味深い話が聞けそうですね」彼女の知的好奇心は、留まるところを知らない。その前のめりの姿勢も魅力的だ。

追記1:実際は、主神教へのラディカルな反体制運動に、迫害された女性魔導士や錬金術士が合流し、バフォメット系カルトが乗っ取りをかけたのが始まりだが、それを詳しくすると思想史の講義になってしまう。

追記2:"魔女(性別問わず)"とされた人々には、村はずれや山奥の独居老人や結婚適齢期を過ぎた女性が多く含まれた。前者は、「怪しげな薬作りや、見慣れぬ植物の収集」という咎で告発されることが多かった。医療制度が、王侯貴族への特権となっていた時代、平民が頼れるのは、主神教や修道院の薬か、「村の知恵袋」であった。修道院や錬金術士が、よく口にするように「薬と毒の違いは、量と使い方に左右される」のだ。素人考えで薬草を使っては、身体を悪くすると、彼らは次第に製法を秘密主義にしていく。そして、「村の知恵袋」は共同体と距離を置き、疑心暗鬼で悪魔化されたのだ。(薬学博士兼科学史家ヴァンサン・マルボーン著『怪しい薬屋の民俗学』より)

追記3:高等医療魔法「サージョリー」のことか。これは、複数の白魔女複数人により、"手術室"をあらゆる空間に作り出す結界魔術である。この領域内の元素や力場は、術者の制御下に置かれ、しばしば世界の法則を超越する。外科手術で、傷口が微生物や瘴気で悪化しない理由の一つだ。

追記4:飛空艇から直接戦場に降下し、負傷者を応
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