お姉さんと数学:後編

父親「…本当にお前が、小テストとはいえ満点をか?」
母親「ほら言ったでしょ!やればできる子なのよ!」
少年「…」両親に答案を見せた彼は、驚愕と称賛に出迎えられた。

父親「にわかに信じがたいが、確かにこの字はお前が書いたものだな…良くやった」父親は、彼の頭を撫でた。
少年「ありがとう」
母親「この勢いで頑張るのよ。お母さん、応援してるから!」
少年「う…うん」彼の胸にチクリとした痛みが走った。

 自室への階段を登る足がなんだか重たく感じられた。(ぼくは、お姉さんの力を借りただけ…)悪魔の力を借りた、嘘を吐いた。両親は、彼を素直に誉めてくれた。

 少年は、それ以来何かにつけて、あのデーモンに助力を請うた。彼女は、その度に快く答えを授けた。

お姉さん「人間が世界を切り取るべく、自然や資源を一元的に理解するために、数学を産み出した」
少年「それまでは、人間は何をして暮らしていたの?」
お姉さん「洞窟暮らしだ。なぜ、地上で暮らす様になったか?神が君らを見出だしたとか、暗闇から魔物が現れるようになったとか聞くけどね?深淵に棲む連中は、あるいは君らが知性を得て、庇護下から出奔したとか言ってたりね」
少年「悪魔でもわからないの?」
お姉さん「魔王軍が組織化される前、つまり君らがうじゃうじゃ群れて暮らす様になる前の記録はほとんどないからね」
少年「そっか…」
お姉さん「ただ、興味深いこと、知性をいかにしてか獲得した人類は爆発的に増加したという伝承は各地に残る。文字や数の発明も洞窟時代なんだろうね」

 デーモンは、洞窟の壁を作り出し、黒板代わりにした。

お姉さん「さて質問、この時代に最大の数はいくつでしょうか?」
少年「うーん?10かな…指で数えられる最大の数…」
お姉さん「正解。衣食住に余裕ができて、余計なことを考える時間ができた。彼らは、手指の数以上のものを計算する必要ができたんだろうな」

お姉さん「だけど、数えるのに文字を使えばいいと言っても、そのためにいちいち新しい数字を作らなければならない。不便だね」
少年「I(1) V(5) X(10) L(50) C(100)…訳がわかんなくなってきた…」
お姉さん「そんな時、砂漠地方で、画期的な文字が作られた『0』だ」

お姉さん「0が産まれる前…それまで10や100は『1(空白)』と『1()()』だったんだよ。いちいち数字を作らなくていいけど、今度は見分けがつかないよね」
少年「0は、空白という意味だったんだ…」
お姉さん「空白、無。当時、かの地を支配していたラミアクイーン、『ティアマト、ないしゲー』は無限と完全性を象徴していた。彼女が、その尻尾を口に入れ、真円を形成して脱皮を繰り返した。転生と言うべきか…」
少年「ラミア…つまり、蛇の魔物が0のもとになったんだ」

お姉さん「0の発見は、人間の世界観の拡張とも言えるね。こうなれば、1000や10000とどんどん大きな数字を扱えるようになる」
少年「人間は、世界を数字で管理できると考えるようになった…」彼らの前には、見渡す限りの小麦畑が出現した。
お姉さん「ああ。無限に連続する(アナログ)な自然を、一つ一つ断片的に(デジタル)に理解する手助けになった。また、個体数が増えても個人でなく、集団として一元的に統括できた。数字は偉大だね」家畜や人間を石板に記録する人々の幻影が現れた。村が発展し、壁が作られた。
少年「数が増えて、村や街ができた…」
お姉さん「富が増え、人口が多くなる。貧富の差、資源と土地の争い。世界が楽しくなってきたな!」彼女は、真っ黒な目をギラギラと光らせた。

少年(お姉さん、何て楽しそうなんだ…)
お姉さん「ところで君、最近、数学の授業を真面目に受けているみたいだね?」
少年「…お姉さんの話を聞いてると、数学に興味が持てて、勉強する気になった」
お姉さん「そうだ。君は、下らないと思って逃げていただけ…その価値を理解し、自分の糧とする。やればできるじゃないか」彼女は真面目な顔になり、少年の頬に手を添えた。少年は、デーモンの真剣な美しい顔に、鼓動が早まった。

お姉さん「恩着せがましいのは承知の上で、君に問いたいことがある…」悪魔の目は、彼の瞳が映り込んでいた。
少年「何ですか…?」
お姉さん「私の契約者になりたまえ。私が君を勝利者にしてあげよう…」
少年「えっ…」
お姉さん「私は親切心から、君の家庭教師紛いをしてるわげじゃあない…私の悪魔としての直感が、君を切に渇望している」

少年「何を…むぐっ」彼女は、彼を抱き寄せ、唇を奪った。
お姉さん「…ん〜」悪魔の舌は、少年の口内を犯した。
少年「んんんん!」
お姉さん「ふぅ。やはりこの味…君は逸材だ」
少年「ふえっ…」
お姉さん「良く聞きたまえ…魔王様が代替わりして、魔物と人
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