お姉さんとの邂逅

 「学校なんて無駄」ベンチに座る少年は呟いた。彼の口ぶりは、負け惜しみの響きを伴っていた。彼は、地面を眺めていた。周りの光景がそうさせているのだ。

 人間、淫魔、獣人等々、多種多様な者達が、談笑したり、遊んだり、接吻したりしていた。「昼間から何やってんだか…」学校を抜け出した少年は、周囲の幸せそうな者達に更に気分を悪くした。

 「別の公園にでも行くか…」彼は、立ち上がり歩き始めた。(みんな、ぼくのことなんか気にしちゃいない…)少年は、どこへともなくとぼとぼと進んだ。


 「おー、すごいな。昼間から、こんなところで」(うるさいな…)彼は、何やらぶつぶつと言っている者に苛ついた。その声のする方を見ると、異様な人物がいた。

 まず目につくのが、蝙蝠の皮膜めいた日傘であった。昼間に目立つ真っ黒な茶会ドレス、これまた黒々とした手袋、インクを垂らしたかのようなボンネットを身に付け、そして何かを観察するオペラグラスを手にしていた。

 (不審者だ…)少年は、関わり合いにならないように、その場を通りすぎようとした。

女性「そこの少年」不審者は、いきなり彼に話しかけた。
少年「えっ」少年は、びくつきキョロキョロと周りを見た。
女性「君以外に誰がいる?」彼女は、オペラグラスから目を離さず、少年に手招きした。

(何か、上手く言ってごまかさないと…)彼は、どう返答したものか、俯いて拳を握った。

女性「君、その出で立ちは、近くの学校の生徒だな?」
少年「えっ…なんで?」(ぼくのことを見てもいないのに当てた?)
女性「どういう事情があるか知らないが、君のことを報告してもいいか?」
少年「そ、それは…こまります」
女性「そうか。じゃあ、ちょっとこっちに来たまえ」

少年は、学校に連れ戻されるのを危惧して、仕方なく不振人物のもとへと近づいた。彼女は、やはり彼のことを見ずに、ベンチに座るように促した。少年は、黒づくめの人物から人一人分開けて座った。

女性「早速だが、これを見たまえ」彼女は、オペラグラスを手渡した。
少年(うっ、酒くさ…)彼は、女性の纏うアルコールの香りに顔をしかめた。
少年は、おそるおそるオペラグラスを覗いた。

女性「何が見えるかね?」
少年「男の人と女の人が、抱き合ってます」
女性「そうだ。二人の服装はどうだ?」
少年「何も、き…着ていません」少年は顔を赤らめた。
女性「いかにも。世も末だな」
少年(たしかに)少年はゆっくり頷いた。

女性「この公園は、毎日このような状態なんだ」黒づくめの人物は、少年からオペラグラスをひったくる。彼は、強制的に彼女と目を合わされた。双眼鏡をしていない目は、真っ黒の中に金色の瞳があった。更に言えば、その顔色は青かった。

少年(デーモン…)
女性「ここなら、周りの連中を眺めるだけで暇を潰せる」
少年「は…はあ」白い手袋が、肩に乗せられた。
女性「ところで暇と言えば、君は学校も行かず昼間から何をぶらぶらしている?」

 女性の目が、真っ黒な眼に金色の瞳が、少年を見つめた。文言に反して、彼女の表情や声色には彼を責めるニュアンスは含まれていなかった。彼は、何と答えればいいかわからなかった。

女性「ふむ。まあ、君のような思春期の子どもには色々あるのだろう」彼女は、そう結論付けるように言った。それが、彼の反抗心をくすぐったのか。
少年「学校なんて、くだらない授業、バカみたいな生徒、押し付けがましい教師だけで…嫌になって出てきた」そのように言い捨てた。堰を切ったかのように、不平や不満を語り始めた。女性は、少年の話を黙して聞いていた。

少年「はあ…はあ…」彼は、喉の乾きを覚えるほどに、話し疲れていた。
女性「君の言い分は理解した」
少年「…はあ、そんな慰めなんていらないよ」
女性「いいや。君ら人間の人生には段階がある」彼女は、滔々と語り始めた。
女性「それぞれの段階で、壁にぶつかることがあろうさ。子どもには子どもの、大人には大人の苦悩がある。君にとって辛いこと、耐えられないという、それを否定はしない。それが君にとって学校だったというだけだ」
少年「あ…」彼女は、少年の髪を優しく撫でた。
女性「行きたくないなら、行かなくてもいいのではないか?」耳元で囁く声に、彼は赤面した。

女性「さて、話し続けて疲れたろう?これを飲みなさい」彼女はスキットルを差し出した。
少年「そんな、大丈夫…ごほっ」彼は、見ず知らずの相手から貰うのを躊躇った。しかし、カラカラの喉がむせてしまった。
女性「ほら見ろ。飲めば一心地つくぞ…」彼女は、実際に飲んで見せた。「毒もないだろう?」
少年「…」彼はスキットルを手にとった。
少年(くちうつし…)彼は、一思いに液体を煽った。

少年「ごく…うっ」その飲み物は、水ではなかった。鼻をつ
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