5:獄炎に焦がれ、死霊に抱かれ

グラウザム城内は、敵味方入り乱れての大乱戦となった。
そこら中に、光の剣で封印された屍や幽鬼が転がり、生気を失った聖騎士や僧侶が倒れていた。

その中でも、領主の間へと進む一団が一際目立つ。赤き法衣に身を包んだ司教と、如何にも精鋭らしき騎士がアンデッドの大群を掻き分けていた。

「猊下!いよいよ魔力が濃く反応しております!結界の発生源は近いでしょう!」部下の一人が、振り子を用いて探知を行う。「ふむ、重畳。主も、我らを導いてることでしょう」クラウスは、無造作に発光する剣を射出し、周囲の敵を壁に縫い付けていった。

「そうあれかし…だが、お前達気を抜くなよ。ここまでは楽勝でも、敵も強くなってやがるからな」大柄なクルセイダーが、周りに釘を刺した。「ヴァルター、言ったそばから敵が迫っていますよ。貴方も注意なさい」

彼らの言う通り、アンデッドの顔ぶれが、中心に近づくごとに上位の者となっている。よたよた近づくゾンビやスケルトンから、今や魔法や武器を扱う首無し騎士や死霊へと変わっている。

騎士団は、破邪のタリスマンや「ゼークネン(祝福)」の巻物を惜しみ無く使い、敵を寄せ付けなかった。だが、聖具を消費するに反比例し、アンデッド軍の攻撃は激しさを増していく。「ここより先へは通すな!」「ぐわあっ!」一人また一人と頭数を減らしていった。

「貴様が大将か!?」「勝利の誉れあらんことを!」ランスを携えたデュラハンが、クラウスに襲いかかる。「猊下!」巨漢の騎士ヴァルターが、戦斧で割って入る。

「ぐうっ!」人間を凌駕する膂力に重戦士が呻いた。「人間にしてはよくやる!お前は大将を追え!」「はっ!」一人が、司教に追いすがる。「しまった!」

「悪く思うな!」魔力の籠る槍が、クラウスに迫り来る。「主は我らと共にあり」「何!?」しかし、赤きビショップは魔物の攻撃を避けもしなかった。デュラハンのランスは、周囲を回転する光の剣に阻まれた。

「不浄なる者に救いを…」「うわーっ!」彼は、剣を手に取ると、そのまま相手を斜めに斬った。不死の騎士は、光に封じられ停止した。

「貴様っ!」「隙あり!」「ぐうっ!」もう一人のデュラハンの注意が逸れた隙を狙い、クルセイダーは戦斧ではね除けた。「はあっ!」「…うっ」ヴァルターは、体勢を崩した敵めがけ、アンデッド封印の聖印を投擲した。そのまま首無し騎士は機能を停止した。

「司教、お怪我は!?」「私は大丈夫です…だが、彼らは」2人は、後方の騎士達を振り返った。死霊が宙を舞い翻弄し、周りの死骸がじりじりと迫っていた。クラウスは、ヴァルターに目配せした。「かしこまりました!」

クルセイダーは、肩をいからせ、アンデッドのただ中に割り入った。大柄な騎士を見るや、彼女らはすがり付くようにその体に掴みかかるが、全く歩みは止まらない。「ヴァルター殿!」「救援、痛み入る!」騎士達は、鼓舞された。

「俺に任せろ!」ヴァルターは身体を光らせると、纏わりつくアンデッドが悶え離れた。「レゲニールングスヴェレ!」「「「…ああっ」」」クルセイダーから放たれる回復魔法が、空を飛び交う死霊を退散させた。

「かたじけない…」「弱音は任務が完了してから言え」ヴァルターは、ペンデュラムの騎士に肩を貸した。「皆、よく頑張りました。主も天より我らを称賛してくださるでしょう」「「「そうあれかし!」」」クラウスが手を翳すと、騎士達はたちどころに傷を治した。

彼らは、遂に城の最上階へと到達した。「結界は、領主の間でなく、あちらの時計塔から発している様です…」手元の振り子が、渡り廊下の先にある緑色に光る塔へ反応していた。「向かいましょう」「「「はっ!」」」

(アンデッドは、何度でも復活する…根源を潰さぬ限り)クラウスは、考えごとをしながら塔へ向かった。ワイトの女侯は棺を破壊すれば完全に死ぬ。そのためには、忌々しい結界を破壊せねば…その思考が、命運を決めた。

「…?」「どうした?」ヴァルターは、傍らのペンデュラムの騎士を振り返った。「振り子が…あっちに吸い寄せ…」「…あ」彼らは、渡り廊下に踏み入る司教の足元を見るや、すぐさま彼を突き飛ばした。「何っ!?」

「があああっ!」ヴァルターは、床より沸き上がる火柱に悶え苦しんだ。「ヴァルター!」「「我らを気にするな!猊下を頼んだ!」騎士団は、炎により分断された。「くっ…仕方ありません。あなた方は、私とともに結界を一刻も早く破壊しましょう!」「「はっ!」」

「惜しいわね…あとちょっとで、あの無礼な奴を閉じ込められたの…」「「!?」」クルセイダーと振り子の騎士は、空中に燃え盛る火の玉を見た。否、それは人型の炎である。「待ちなさい!」火の玉は、司教を追いかける。

「貴様ぁ!」「痛っ!」騎士は、ペンデュラムによって、炎の輪郭を拘
[3]次へ
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33