謁見の間には、コルネリアによって側近らが呼び集められた。彼女以外には、この場に4人の者が集められた。「もはや、これは国王による暴政に他なりません!大義は我らにあり、今すぐ王都に出兵を!」シルトマイトの首が、議論の口火を切った。
「しかしだね…宣戦布告するにも、一応のそれらしき理由が必要なのだよ?こちらから手を出せば、むしろあっちの思う壺じゃないかね」トイシュングが反論した。彼女の周囲に光る人魂が、図像を描き出した。「ふむふむ…」傍らでは、ボロを纏った魔術師が何らかの古文書を熟読していた。
「では、我らはこのまま言う通り出ていけと!?」「そうは言ってないさ…ただ、人間ってのは本音と建前があってだね?」ファントムは、デュラハンに対して大げさに手を上げて、「落ち着け」のポーズを取った。
「恨めしい…死んでいるだけで、なぜ私達はいじめられてるのかしら…」炎に包まれた貴婦人が、涙を流して火力を強めた。「うわっ!プルガトリア女史、頼むから火を弱めたまえ!」「みんなそうよ!みんな、わたしなんかこの世からいなくなればいいって!」ウィルオーウィスプは、髪をかきむしりながら呻いた。
「皆様、落ち着きなさって!」コルネリアが鶴の声を発した。「まずは、状況を整理しましょう…トイシュング、率直に言って、今回の暴挙は他の領主はどう受け止めるでしょうか?」「まず静観でしょうな…そもそも我々は目の上の瘤だと思われてるやも」「では、派閥や同盟は期待できないと…」「はい…」
「侯爵様!貴女も、言われるがまま退去することに納得すると言われるか!?」シルトマイトは狼狽した。「わたくしも不服です。甦ってまでこの地を守り、陛下や国に尽くしたのにこのような仕打ちとは…しかし、下克上には相応の理由が…」「そのようなものなくとも、人間相手、我らが負けますまい!」
「そうよ!あんな連中、やり返しましょうよ、御姉様!」「プルガトリア…先代様の言葉を忘れましたか?国に忠を、民に平和を。大義なくば、教会や他国まで出てきかねません。そうなれば、民草を巻き込むことに」ウィルオウィスプは、プルガトリアは姉の言葉により一層火力を強めた。
「恨めしい!あんな恩知らずどもを守れというの!?」「それが、貴族のあるべき姿です。それに我が領地は皆愛し合い、敬い合い過ごしてきたのです。それすら、見捨てると?」「それは…」彼女の火は、パッと弱まり、俯いた。
「なるほど、なるほど…」魔術師は、古文書の内容に得心が言ったようだ。「ライヒェ…貴女先程から、何を熱心にご覧になって…」コルネリアは、呆れたように言った。
「ん…グラウザム侯爵家の家系図と王室の家系図、それに両家の書状のやり取り…」「ライヒェ女史…つまり、侯爵様は王家に…」トイシュングは、思い当たる節を口にした。
「ん…コルネリアは、王家に請求権を行使できるよ…」「まあ、なんてことかしら!わたくしにも大義がございますの!?」「これは…諸侯への派閥や同盟要求に使えそうだね」「やはり、天は我らに味方せり!」「みんな、なんの話をしてるのよ!」一名を除き、彼女らは早速この切り札を活用することに決めた。
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「…というわけだけど、ウチの侯爵様を女王に据えれば、大公様も安泰ってわけさ」霞のように揺らめく、仮面の女が写し出された。「なるほどな、だが、下克上など失敗すれば…」大公と呼ばれた、白髪交じりの恰幅のよい男が顎を擦った。
「タダでとは言わない。要は、王家の貯め込んだ金銀財宝を分け前にするよ、直轄地だってつけるさ」「随分気前の良い話で…貴公らには取り立てて旨味がなく思えるが?」亡霊は、わざとらしく、人差し指を横に振った。「わかってないね…ボクら言ってしまえば死人だよ。ボクらには、金品なんてカロンへの渡し賃さえあればいいのさ」
「それもそうか」「そうそう。死体だけに持ち腐れってね」「相わかった。我らも、王位請求派閥に加わろう。だが、兵の徴募や兵糧の確保にはいくらか日数を貰えないだろうか?」「兵士?兵糧?そんなものいらないさ…ただ、今回の王軍への不参加と通行許可にサイン貰えればいいだけだよ」
「自前の兵力だけで勝てると宣うか?」大公は困惑の色を深めた。「『自前』だけならね…ボクら(死人)は、お墓は国の至る所にあるからね」ファントムは、ぞっとするような笑みを浮かべた。
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王都の中心に聳え立つ、ヴァイセライハー城。ここに、王軍の指揮官と、管区を取り仕切る大司教が、招聘された。玉座には、王冠の下に鉄仮面を着けた人物が鎮座した。国王ハインリヒ10世、またの名を「顔無し王(ゲシヒツロス)」である。傍らには、老騎士と宰相が控えている。
「クラウス大司教、並びにヨーゼフ将軍…貴公らも知っての通り、グラウザム侯爵
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