ダウードは、カリムの後見人、並びに皇太子(シャーザーデ)ムスタファの代理として帝都の政務を差配することとなった。彼は、まず、ムスタファとユースフに使者を送り、ムスタファの戴冠並びに、官僚と軍の再編成、経済の安定と住民の慰撫を行うこととした。
しかし、何事も順風満帆とはいかないのが、世の常。ムスタファとユースフは出頭拒否したのである。更に悪いことに、後宮では皇太后(ムスタファの生母)と宦官長が共謀し、再編成に反対する官僚と将軍を抱き込み、一触即発の事態に発展。
「ムスタファ=シャーザーデ、並びに皇太后、両殿下は呼応して、恐らく殿下とカリム様を支持する官僚を排除するおつもりでしょうな」ダウード軍将軍ジャファルは、努めて平静に事態に対する見解を伝えた。「私も、ジャファル殿に同意する…ダウード殿下、貴公がアマシポリの手勢1万と合流したとして、とても首都で戦える見込みは無かろう」アマゾン客将シシュペーも同調した。
「ムスタファ兄上と、弟ユースフは、手を結んでいると思うか?」ダウードは、腹心の律法家ユースフ=アブドゥラーに意見を求めた。「無いとは言いきれませぬ。しかしながら、両殿下が轡を並べて我らをすぐにでも攻撃する可能性は低いと存じます。なぜならば、シャーザーデと弟君は多島海を挟んでおりこの短期間で盟を結ぶのは難しいでしょう。また、片や親東帝国、片やガーズィー(聖戦士)のお二人が手を組むことも考えにくいかと…」
「ならばこうだ。一端、皇帝代行と首都の統帥権を皇太后殿下に返還する。あくまで、カリムの後見人として、アマシポリに保護を名目に帰還。しかるのち…ユースフから討つ…」「畏れながら、ダウード様…ユースフ様は単独2万を要する大軍でございます。また、東の諸侯にも人気があり、もし合流されれば、我らはすぐに呑み込まれまする!」ジャファルは、ダウードを諌めた。
「座しては死を待つのみ…私は殿下の意見に賛成するぞ!」「客将殿!しかし、我らは全軍1万ほど、仮にユースフ軍に先手を打とうとも数の差はいかんとも…」「ジャファル殿、それでも戦士か!?勝てぬ戦を強行するは愚将、されど最初から勝ち目を捨てるは臆病者ぞ!」「なんと、勝算があると…?」
「ユースフ皇子は、赴任してから浅く領内の統轄がまだ不十分と聞く」シシュペーはジャファルを見据えた。「そこに、必ず隙が生まれる」「しかし…」「いや、将軍殿…私は軍略には疎いですが、確かに全軍を十全に使えぬ今は、攻撃と行かずとも、付け入る余地はありましょうぞ」律法家ユースフも同意した。
「…なるほど、アマシポリで持ちこたえるよりは、電撃戦の方がと…」ジャファルはダウードに向き直った。「殿下のご意志が最終決定となりまする」「我ら、御心のままに」ユースフが続いた。「ダウード殿下、女王に代わり、私が貴方を護らん」シシュペーが胸を叩いた。
「良かろう。私の決定は、こうだ…」
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「へえ、ユースフ様は精強でございますな」「そうであろうとも!大声では言えぬが、ベイリク達が『陛下』への支持を表明すれば、帝都も、異教徒に下ったシャーザーデも反逆者ダウードをも打ち倒せようぞ」商人は、門番に金子を渡しながら、世間話をした。馬車の「荷物」への目こぼしのためだ。
商人は、工事を行う城壁や宮殿を見た。「…ユースフ皇子は、やはり地固めを優先していらっしゃるようだ」「…まだ、戴冠すらしておらぬに「陛下」ときたか…」「実際、シャーザーデが東帝国に半ば恭順した以上、あの方が、次期皇帝と考える者も多いのでしょう」商人は、荷台に話しかけた。答えたのは、精悍な女性の声であった。
オウィディウスとシシュペーは密命を受け、第四皇子ユースフの居城へと侵入を果たした。二人は、市民に化け、それとなく懐事情に探りを入れた。
「どうやら、城壁の補強などは何やらこの地に住まう異民族を徴収して使っているようですな」「しかも、有り得べからざる進捗で、既に大半は出来上がったそうな…」
「臭うな…」「確かに、ご主人様のお召し物は、ここ数日同じでございますが…」「…っ、そういう話をしとるのでない!何か、要塞化を早めるカラクリがあるのではないかと言っておるのだ」シシュペーは、オウィディウスを小突いた。
「ご主人様、もしやその理由は、すぐに判明するかも知れませんぞ」「何か見つけたか?」「あれをご覧ください」召し使いは、主人に手で目標を指し示した。見れば、襤褸を被った者達が、工具や資材を手に、壁に集まってきていた。「回りくどいやり方は好かん…直接問い質すか」
「でしたら、わたくしめに妙案がござる」「そうか、お前の手管を見せてくれ」「仰せの通りに…」そう言うと、オウィディウスは品物を手に、大工の集団のもとに近づいていった。
「…キビキビ働け!日の
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