セクション4

 女ヨーカイは出方を考えあぐねているようで、まだ行動には映らない。こちらが機先を制したいが、しかし、依頼人を放ってはおけない!そう思った瞬間、聞きなれない声が響いた。
 「こんにちは。私は、〈放蕩〉というんです。」女に見えるナニカは、よくとおるアルトソプラノの声で話しかけた。「放蕩…?」傭兵は、思わず声に出した。
 次の瞬間、視界から女は消えた。(…?!)辛うじて、視界の端にワインレッドの風が見えた気がした。
 「アイエエエ!」ニシキの叫び声が、背中越しに聞こえた!「…ッ」遅かった、振り返った先には、〈放蕩〉に肩をつかまれ震える依頼人がいた。
 「まあまあ、カワイイなアカチャンね」女は初老の男に顔を近づけた。「アイエエエ!殺さないで!」「殺す?それで私に何かメリットがある?こんなにイイ反応なのにネ
#128154;フーッ
#128154;」そう言って、彼女は耳元に息を吹きかけた。「ムンッ」スーツの男は、体中の穴という穴から体液を吹き出し床に崩れ落ちた。ズボンには大きなシミができおり、生臭い匂いがマサキの鼻を刺激する。
 『マサキ?!ナニシテンダヨ!早く助けなきゃ!』青年は、相棒の声に正気を取り戻した!ブゥーン!ドローンが急速上昇!『Take this!」機体下部のスロットから、筒状のものが投下!
 ブシューゥ!それはスモークグレネードだ!マサキは煙に紛れる!(よしッこれで視界から外れればッ…!)もちろん、彼にも煙の中を透視はできない。しかし、〈電脳栗鼠〉のナヴィゲーションさえあれば!(相棒はほんとに頼りになるぜ…)そして、ライトが示す場所にカタナを振り下ろした!Slaaaash!
「へッ!トッタリ!」傭兵は、ここで決める為に体重をカタナに託した!『…?!』「アレ?」手応えなし…「あのアマ!どこ行き『マサキ後ろだ!}何!?」女はそこに立っていた。コンマ数秒でここまで動ける人間が存在するのか?!否!その者は、マモノである!マモノが人間より素早いことは、魔物娘図鑑にも書かれている!マサキにはそんなことはどうでもいい!カタナはすでに振り返る速度を載せて、女の胴を断ちに来ていた!
 (奴の両手は、あの角笛でふさがってる。今ならイケル!)勝利を確信ししたその時である!「イヤーッ!」切っ先が、その柔肌に触れるよりも速く、〈放蕩〉の蹄につかみ取られてしまった!「ナニッ!」
 「ウフフ、アカチャンの動きは読みやすいネ。キミも気持ちよくしてあげる
#128154;」何たるマモノ特有の超人的身体能力であろうか!マサキは得物を引き戻そうとする、しかしびくともしない。少しずつ、体と頭を恐怖が支配してきた。なんたることか、神話に登場する冒涜的半山羊人間がこの場に実在している。おお、主神よ寝ておられるのですか?そのバストは豊満であった。
 『今助ける!』ドローンの装甲が大きく開き、内部の何らかの機械が露出した。『Take th[ス〜ッ!イヤーッ」ブオオオーン!『?!』ドローンが制御を離れ墜落する!いかなる原理であろうか?〈放蕩〉は角笛を通して、そのたぐいまれな肺活量で周囲の煙幕を吸い取り、ドローンにぶつけたのであった。
 『ガガ…マサ…ピー…キ』ドローンがこと切れた。「アララ。アナタのお仲間さんもこれではどうしようもないことですね?」山羊人間はいたずらっぽい笑みでマサキに話しかけた。「アア…」傭兵はもはや彼女を見つめることしかできないでいた。「フフ、おたのしみネ」「アッ、アイエエエ」

◆◆◆◆◆

 「ケツ・ノ・アナ!」〈電脳栗鼠〉は吐き捨てた。ディスプレイには、「通信途絶な」の無慈悲な文字列だけであった。(どうする?マサキは絶体絶命だ!命に危険はない、だが…)
 命の危険はない…では彼女の感じる焦燥感は何に向けられたものか!?マモノは、時のマオウによってその性質を変える。かつては、神話伝説の怪物のように、その圧倒的な力で人々を蹂躙した。今も蹂躙することは変わらない。ただ、現在彼女ら(そうマモノはほぼ女性である)は、血肉ではなく人間の精を求め、生贄や食料でなく番を求めるのだ!
 「マサキの貞操の危機だ…やるしかない…」〈電脳栗鼠〉は誰にでもなく呟いた。「だが、気を付けなくては…カレを傷つけてはならない…」ハッカーは部屋を見渡した。この狭い部屋の壁には、あの青年との仕事で撮れた写真がいくつもある。どれも彼の笑顔がよく見えた。コンピューターに向き直る。そのマルチディスプレイの一つは、マサキのバイタルサインをまだ表示していた。 
 もちろん、健康状態やケガの状況を知るために、彼の合意のもと体に装着させている。心拍数、体温、脳波、十数項目もの中には、何故か「感度」の項目も。そしてそのうち、心拍数は平常値を大きく上回り、体温はまるで高熱を出しているかのような数値
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