ドームの中心にある、理事長ミスター・フーの彫像、その真上には天井から吊り下がる半球状の構造物があった。「オテント」と呼ばれるその物体は、しかして理事長の執務室兼居住スペースである。
そして、全面ガラス張りの壁、赤い絨毯、ワータヌキや古事記の写本が納められた本棚等がこの空間を演出していた。その中心には、シャンデリアのような銅製の飾りがあり、その真下に簡素な木製の机が置かれていた。
そこに座る老人こそ、ミスター・フーである。中国はチン・エラを思わせるポリエステル・マハラとPVCクルメに全身を包み、メガネをかけスキンヘッドであった。一際目を引くのは、そのナマズめいた口髭であり、胡散臭い印象を与えていた。
彼は、眼下での敵対企業からの襲撃には全く関心を向けていなかった。その視線は、机上のアイテム、具体的には古めかしい写真立てに注がれていた。そこには、色褪せたセピア調の老夫婦と小さな少女がいた。
「ビーシャ(陛下)、関帝軍備公社から通信が入っています」傍らに控える、薄桃色の髪をした秘書が彼に報告した。「関帝?ああ…適当に対応しなさい」「今回の侵犯行為に関して、ビーシャからのお墨付きを欲している様です」
「私にはどうでもいいこと。もうこの都市には有用な被験体はいない、彼らがいくら捕獲しようがよい。むしろ処理の手間が省け、プロダクトのデータ収集もできる。すなわち一挙両得也」ミスター・フーは無感情に言った。
「かしこまりました」秘書は同意し、すぐさま手元の端末を操作した。キャバーン!画面に表示された文書に、ミスター・フーの電子ハンコが刻印された。その刹那、天井の空調設備から薄桃色の液体が滴って来た。
それは、スライム様の粘液であり、意思を持つかのように秘書の肩に延びてきた。秘書は、何でもないように無視した。次の瞬間、スライムに目のような器官が生じ、秘書の肩も輪郭を膨張させ眼球を見開いた。
「もう一つ、報告がございます」秘書は、肩の輪郭を一瞬膨張させ粘液を取り込んだ。「何だね?」「先ほど観測されたエネルギー、やはり『気功』で間違いないと『私』から確認が取れました」
ミスター・フーは、口元を歪めて胡乱な笑みを浮かべた。「ジンツァイ…ムッフフフハハハ!」その時ドアベルが鳴り響いた。『執務中シツレイをお許しください!治安維持局副局長アラミ・テンミンです』ホロ・インターホンが、入室許可を求める警察機構幹部の顔を写し出した。
「入りなさい」執務机の席札と椅子が七色に輝いた。理事長の名前、「Fu Manchu」の文字列を光らせながら…
◆◆◆◆◆
姉弟弟子は、辛うじて被害を免れた雑居ビルに到着した。いつもは活気のある1階のチャイニーズ・レストランには、人の子一人いなかった。皆、避難が完了したようだ。
二人は、ドージョーに帰宅すると、すぐさま姉弟子は弟の足の銃創を治療した。「イタイ!」「ん…ガマンして…シャオグーならできるよね?」メイランは、鋭利な爪で繊細に傷口をほじくり、銃弾を取り出した。黒い血液が流れ、シーツをしとどに濡らした。
「グウッ」「ガンバッタね…もう少しだから」そう言うと彼女は、応急キットの消毒液と脱脂綿、包帯で処置を施し、最後に添え木代わりにバンブーで脚を圧迫した。
「ジェジェ…アリガト」「ん…シャオグーはエライ…よく頑張った」彼女は、そう言うと徐に濡れたタオルでシャオグーの体を拭った。弟弟子は、水の冷たさに体を震わせた。
「ジェジェが…ずっと着いてて…あげるから…ゆっくり寝て…治してね」メイランは、シャオグーの髪を優しく撫でながら囁いた。「ウン…」シャオグーは微睡みに包まれた。ただそこに、姉が、メイランがいる、その感覚だけで彼は安心した。
◆◆◆◆◆
「ウン…ヨクネタ…」優しい朝の日差しを顔に受けて、彼は徐々に身体の感覚を戻してきた。「ン?」しかし、覚醒に連れて、彼の半身に何やら柔らかく、重量感のあるモノが触れていることに気づいた。
腕を動かそうとする、できない…少年はそちらの方を確認した。そこには、彼の横で寝息を立てている、白髪に黒い毛深な耳の姉弟子がいた。「エッ!?」シャオグーはパニックになった。咄嗟に離れようとしたが、胴体には彼女の腕が巻き付いているようだった。
次に、股間に違和感があることに気づいた。「ウッ」メイランの太く、しかし張りのある太股に彼の腰はは挟まれていた。動けない上にその圧迫感から、シャオグーの股間に血が集まって来ていた。(マズイ!このままじゃ、ジェジェに気づかれる…)彼はどうに拘束から逃れようとした。
「ん…」「!?」弟弟子は、喉から心臓が飛び出るのではないかというくらい、驚き慌てふためいた。「ん…シャオグー起きた?…顔色は…悪くない」メイランは、目を擦りながらシャオグーの容
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