「…それで、キミはこう言いたいのか」髪を短くそろえ、物々しい装いの青年は、ドローンに切り出した。「磁気嵐や機械の故障やら、なんやらは…その異次元からの侵略の先触れだと?」
ヌンヌンヌン、ドローンは中空でホバリングしているだけで、何の返事もない。
「…ッたく。与太話はこれくらいにして、ビズに戻ろうぜ〈電脳栗鼠〉さんよゥ…」青年は駆け出した。すでに商談までは、あと10分にも満たない。傭兵は信用が重要だ。結局は、こんな荒れた都市でも社会人であり、腕っぷしだけでは縄に積ん枯れたも同然であろう。
『きみは少々、短気なきらいがあるね。まッ、〈末法の世〉ともなればキミみたいなやつでも、こうして仕事にありつけるといったところか…』ドローンが沈黙を破った。その声はどこかあどけなさを残していた。
「へッ、いきなし仕事が迫っているのに、『話したいことがあるんだ…』なんて切り出されてみろよ。ちょっと期待したんだぜ、いよいよオレらも『遠距離恋愛』から、ようやく顔を突き合わせて仕事するようになるんじゃねえかと」男は、冗談めかした口調で相方の小言に返した。暗に「お前が先に始めた」と詰めている。
一瞬だけ、ホバリングのバランスが崩れた。『〜ッ、ヤメロッテ!ワタシたちはそんな仲じゃないだろ!』〈電脳栗鼠〉の声にはまんざらでもないというトーンが隠れていた。
「わかってるよ。『まあッ、別にキミが嫌じゃあないなら…』?なんか言ったか?」『何でも…』二人、いや一人とドローンは歩みを再開した。
◆◆◆◆◆
「もうすぐ目的地だ…」カメラ越しにパートナーを見ながら、〈電脳栗鼠〉はひとりごちた。肩までの伸びた栗色の髪をポニーテールにして、サングラス様のデバイスをつけた小柄な女が、1677万色に光る椅子に背を持たれかけていた。
しかし…仮に読者の皆様が、何らかの魔術に秀でていればこの部屋の違和感にすぐに気づけたのではなかろうか…。それは、いたるところに散乱し、足の踏み場もなくなっている、ヘンタイムックやエッチピンナップ、ティッシュペーパー屑ではない。ましてや、マルチディスプレイのいくつかが、ヘンタイアニメや違法アップロードビデオをを同時に再生しているせいでもない。
否!この、〈電脳栗鼠〉は先ほどから、仲間の青年の声で太ももを濡らし、『遠距離恋愛』という皮肉で、足の間にはわせた手を大きく動かした事でももちろんない!
彼女の背と椅子の間には、髪と同じ色の、しかしながらそのポニーテールより二回りは巨大な毛の塊、おお主神よ、尻尾が挟まれていた!
「ンフフ、今日もキミの活躍を見ながら、ちゃっちゃと終われそうだね?マサトクン」
『あたぼうよ、オレのカタナ、ドローンの装備、そしてキミのナヴィゲーション。それがありゃ百人力よ。オレたちゃ、〈シロイズキンとクノイチネズミ〉みたいにいいコンビだよな。」マサト呼ばれた青年は、またも軽い口調で返した。
「…」〈電脳栗鼠〉の声にならない絶頂が、全身を震わせていた。
セクション1終わり。2へと続く
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