「アイエエエ!」キデフミは、街灯の消えた川べりの公園に投げ出された。「アバーッ」数秒遅れて、〈ノロマ〉が胴体を戻し、両足の杭を合流させて着地した。「ハアーッ!」キデフミは数十分ぶりの地面に安堵し大きく息を吐いた。
「アバーッ。アヤマッテ!」「ハア?謝ってほしいのはこっちだよ!」〈ノロマ〉はその金属質の両手を振り上げ、青年ヤクザに抗議した。キデフミはそれに怒りで返答した。「大体、おまえは何者なんだよ!?どうして道の真ん中でボーッと突っ立てたんだよ!」キデフミは自暴自棄から疑問について問いただした。「アバー?」「オマエキコエテンコラー!」青年ヤクザは、ヤクザスラングで怒鳴りつけた!コワイ!
「アバッ!」フルフェイス端末の下で〈ノロマ〉は目の前のヤクザに驚愕した。「大体よォ!こんな両手足サイバネのガキがカタギなワケねえよな!?いつも俺のミスにグチグチ言いやがって、クソどもが…」キデフミは上司たちの判断ミスが招いた結果だと吐き捨てた。「ナニイッテルノ?」「ウルセッゾ!」青年ヤクザは、怒りのあまりメリケンサックの嵌った拳を振り上げた!「アバーッ!コワイ…イジメナイデ…」「アアン…?」キデフミは訝しんだ。よく相手を見てみると、自分の背丈の半分もない少女だった。先ほどから、サイバネの物々しさに不釣り合いなほど、この少女は仕草や言葉が幼かった。
「ウエエエン!コワイヨォ!オカアサン!オトウサン!オネエチャン!」「オイッ…」青年ヤクザは、拳を下ろし少女の様子に狼狽えた。「ミンナ…ドコォ…」「…!」彼女の慟哭にキデフミはフラッシュバックを見た。
#65375;母さん…父さん…ナンデ?俺のこと置いてったんだ…?
#65376;離婚した両親は彼を連れて行かなかった。それでも施設に連れていかれるまで、空っぽの家で二人を待っていた。(オトウサンだと思ってた人にも、今日会えなくなっちまうな…)彼を拾い上げた渡世の親も、今宵の失態を知れば敷居を跨がせないだろう。
「コワイヨォ…ドコォ?」「…」キデフミは、〈ノロマ〉の状況に自分の境遇に重ね合わせた。「なあ、ガキンチョ?おまえ、迷子だったのか?」青年ヤクザは、思わず質問した。「グスッ…」「泣いてちゃわかんねえよ…」キデフミは、膝を折って、少女に目線を合わせた。フルフェイス端末の液晶が、彼の居心地の悪そうな顔を映し出した。
「オイッ」「ヒッ」少女は身を竦ませた。「ソノ…俺が悪かったよ…」「…」キデフミは頭を掻いて謝罪した。「家族に会いたいか…?」「…ウン…」少女は首を縦に振った。「ワカッタ…俺もこのままオメオメクランに戻れねェ。一緒に探してやるよ」青年ヤクザは、精いっぱいの虚勢で〈ノロマ〉を落ち着かせようとしていた。「アリガト、オニイチャン…」「アッ?」少女は口を開いた。キデフミはその一言の意味を受け取れなかった。「アタシ、オネエチャンハ、イル…」「そうかよ」「オニイチャン、イナイ…」「俺は兄弟なんかいねェよ…」
「ジャア、ナンテヨンデイイ?」「オラァ、キデフミだ」「キデフミ…」〈ノロマ〉はその名前を反芻した。マスク型端末には「インプット完了な」の文字が点灯した。青年ヤクザは頷いた。「アバー…」少女はハッとしたように首をもたげた。「ゴメンナサイ、キデフミ…」「何がだよ?」「アタシ、キデフミノカゾク、タタイタ。トオクニツレテキタ…」「家族…」キデフミはクランの者たちの顔を思い出した。彼の先輩、トギタ=オニイサンにはいろんなことを教わった。目の前の〈ノロマ〉に殴り倒された。(義理も人情もねェな…オラァ、オニイサンの仇を助けようとしてる…)
しかし、彼は自分でも説明できない感情から、その仇敵に手を差し伸べようとしていた。そのほかの面々、同じ若衆や直属の上司エブキ、オトウサンのタメヤスのことを考えた。思えば、トギタには
#134047;責や制裁はされど、同じくらい世話になった。ブレイク・コテの他の連中は、彼を足蹴にしこき使った。今夜の大失敗がなくとも、クランに居場所はない。(結局、つくづく家族には縁がない人生ッてか?)ヤバレカバレであった。
「オニイサンのことは許しちゃいねェが、あいつらは家族じゃねェよ」「…ソウ」〈ノロマ〉は、その返答に満足していない様子であった。「イクゾ…家とかあんのか?」「アル、〈歯医者〉ヤッテル!」「〈歯医者〉だと?」キデフミはその名に聞き覚えがあった。(サイバネ闇医者の一種じゃねェか…道理でこんな物騒な手足してやがる…)
二人は周囲を確認した。ウシミツアワーのこの辺りは、自動運転トラック以外は人っ子一人いなかった。「歓楽街、ついでにザンギョウ・オフィス街からも遠いってことか…」ザンギョウ・オフィス街とは、ニュートキオの中心地、ニホムバシ・ディストリクトから、都庁まで続く一帯の通
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