ルイ・グラン、かつて偉大な学者であり、今や「グラン判例」によって悪い意味で有名人になっていた。博物館は閉館され、展示物から私物に至るまで押収・差し押さえ、遂には持ち家まで抵当に入ってしまった。
持ち出せたのは、アルバム数冊と財布の二束三文、カバン一つ分の服、書きかけた論文だけだった。この街を離れるか…彼の胸に去来したのは諦念と人恋しさ、そして「娘」への後悔であった。今更、顔を見せられねど、我が娘を抱けぬ寂寥は嘆息と立ち往生をもたらすばかり。
「グラン博士ですかな?」「はい、いかにも、私が…」グランに話しかけたのは、ドラゴニア憲兵であった。はて、退去の勧告などは受けていなかったが?彼が疑問を口にする前に、ドラゴン・コーチが着陸した。「話は、乗りながらさせて参ります。貴方をお連れする所がございます」「?」半ば連れ去られるように、彼は駅竜車に乗せられ、空に飛び立った。
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「…」「…」「…」気まずい沈黙が、場を支配した。ドラゲイ様式の質実剛健な長机に、グラン、ドラゴンゾンビ、ペトラが並んで座らせられた。「パパ、元気?」「お前の顔が見れて、ちょっとは元気になったかな…」
もう今生では会えぬと思っていた相手と再会できて、彼は幾分か気楽になった。しかし、気がかりなのはあの竜である。女性の姿になっているが、裁判以来の化石竜に違いない。「…」「あ、どうも…」目が合ってしまった。ペトラが成長すれば、こういう大人になるのだろうと、考えたそのままの竜であった。
「お前が、ルイ・グランとかいう小さき生き物…人間だな」「あの…」「一度会っているはずだが、意識がはっきりしたのがつい最近でな。改めて、よろしく」「あ、こちらこそよろしくお願いします」
「パパ、あのね…私とママ、もう一度エラい人達にお願いしてみたの、パパに会いたいって」ペトラは、2人のぎこちない会話に割って入った。「そうだったのか…私も会いたかった。一目見られて、心残りもなくなったよ」「…ペトラから、去るということか?」ドラゴンゾンビの目が細まり、爬虫類特有の鋭い瞳孔がグランを射抜いた。
「貴女には、迷惑をかけた…ああ、そうだとも。私は、貴女に娘をお返ししたい。本当に謝罪しても…」竜は威圧的に、ブレスを彼の目前すれすれに噴射した。「…そんな簡単に、この娘を諦めるのか?重要なけんきゅう?ざいりょうなのだろう?」ドラゴンゾンビは、慣れぬ言葉を紡いだ。「どういうものかは知らぬが、要は『宝物』だ。人間よ、ドラゴンは一度手にした宝は決して手放さぬが…」
「どういう意図かはわかりませんが…私はもう研究はやめたんです。娘だ、父だ、そんなお為ごかしでその娘を…ペトラを利用することを、金輪際しないと誓いました」「ふん、勝手に始めて、取り繕い、外野に言われて、無責任に放り出す…なるほど、人間なる生き物は度し難い。私が生きていた頃の猿や鼠の類のほうが、まだしも上等な生き物だった」
「貴女…何を言って…」ドラゴンゾンビは、グランを射すくめながら、ペトラに顎を向けた。「我が子よ…お前はこいつにペトラの名を貰ったのだったな?」「うん」ペトラは、まっすぐグランを見た。「パパに貰った名前だよ?大切な、私の名前」「ペトラ…」
「だが、もうお前の『宝』ではなくなったそうだな?」ドラゴンゾンビは、ペトラを連れて行く素振りを見せた。「じゃあね…」「私は…」彼は、表情を曇らせる少女にかけるべき声を探した。そして、アルバムを落としてしまった。「あ…」
開かれた中には、「誕生日を祝うペトラ」がいた。ページが捲れるたび、「父娘」の思い出が再生された。「ああ…ペトラ、私は…」「父」は、床に膝をついて、「娘」に手を伸ばした。「一緒にいたい!私は、お前と一緒に!」ペトラは、感極まってグランに駆け寄った。「わたしもお!パパもいっしょおおお!」
「…」ドラゴンゾンビは、寂しそうに微笑んだ。ペトラは、確かに「娘」であった。父娘として、確かに時を過ごした姿を垣間見た。彼女が、静かに部屋を去ろうとすると、目を擦った少女が手を掴んだ。「…!」「…いっしょ」
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