前編

グラン博物館にようこそ。古竜研究の第一人者「ルイ・グラン」に創設された当館のエントランスには、大きな化石が見えますことでしょう!こちらは、マグナニマサウラ・ドラゴネンシスという太古の竜で、爬虫類からドラゴンへのミッシングリンクを埋める存在と仮定され…

「…世紀の発見となりました。グランは、復元とともに当博物館を…」鱗ばった少女は、館内アナウンスの続きを口ずさんだ。巨大な骨格標本…あれを目にするたびに、どこからか誰かに呼ばれている気がする。一通り館内放送が流れた後に、それを発した魔石ラジオから「本日は当館にご来館いただき、まことにありがとうございます」と、終了を告げるBGMとともに再生された。

「あ、そこの君、今日はもうすぐ閉館だよ」憲兵に呼び止められた。その鎧は、竜の鱗を思わせ、少女と並ぶと大小のドラゴンがいるようであった。「待ち合わせ、してます」「待ち合わせ?悪いけれど、外に出てくれないか…」「パパ…」「あっ、ペトラじゃないか。待たせすまなかったな…」

「ご家族の方ですか?なんで、閉館ギリギリ…館長!?」「ああ、すまんすまん。今日は、娘と一緒に帰る日で、ここで待ち合わせしとったんだ。驚かせたかね?」「こちらこそ、すみません。では、見回りに戻りますので、失礼します」

「…探したよ、なんでこのホールに立ち尽くしてたんだい?学芸員休憩室で待つって約束だったろう?」「…」ドラゴンの少女は、人間の父親と化石の古竜を見比べて、首を振った。「…なんでもない」「…パパに言ってご覧?悩みがあるんだろう…」「…絶対、わかってくれない」少女は、髪をいじり、目を逸らした。「そんなこたないさ…パパはペトラのことを一番に…」「…じゃあ」


ママは、どこに行ったの?

「ママ…?そ、そりゃあ、決まってるだろう、お空の彼方に…お前を産んだ時…」館長は、左斜め上の虚空をみながら、しどろもどろに話した。「…これ」「…なんだい?」ペトラは、父親に封筒を手渡した。「…血統鑑定スクロール…」「お前、どこでこれを」「…血の繋がりが全てじゃないけど…」「何かの手違いだろう…」「パパと私…一致率38%だって」

「ねえ…パパを責めてるわけじゃないの」ペトラの目が潤んだ。「…」「でも、本当に私のことを思ってるなら…」「…初めは、知的好奇心からだった…」館長は、眼鏡の曇りをぬぐった。

遂に、ドラゴニア政府から同意がもらえたぞ!私は、古代生物・魔物進化学の助教授だった。調査チームには、私の恩師にあたるオリヴィエ教授もいた。グラン君、こりゃあついてるぞ!ほぼ完全な骨格に、これは卵じゃあないか!?「じゃあ、この割れた卵の殻が…」「お前を最初に抱いた日は、昨日のことのように思い出すよ…」

母体は栄養失調で仮死状態を維持できずに死んでいたが、卵の方はかすかに魔力が残留していた。「お前のおかあさんは、最期まで卵を守りきったんだろう。我々が発掘して1ヶ月で、胎動が戻っていった」「…なんで、娘として引き取ったの?」「さあてね…ただ、私の入れる粉ミルクを一番飲んでくれたなあ…」館長は、赤子を撫でる手つきでペトラの髪を触った。「赤子が生きているとすれば、ドラゴニアに返還しなければならない。竜の寿命的には、時効にはならないからね」

「…パパ」「…パパだなんて、私は単に自分の研究材料を手放したくなかったのかもしれんな」少女の心は、かけるべき言葉を探して喉を右往左往した。客観的に見れば、略取誘拐…だが、さりとて話が本当だとして、この人間が自分の寄る辺でもあった。嘘にまみれた男と過ごした今までの人生を嘘にはできない。「…でも、私の親は…」

「…ダガラァ、モノォ…」「「!?」」その時、自分達以外には守衛の憲兵のみのはずの空間に、歪んだ声が、床や壁、展示物を揺るがす木霊とともに響いた。振り返れば、赤い月に照らされた、骨格標本の虚ろな眼窩に…青白い火が浮かんでいた。「…ドコニアルゥ」

26/02/01 20:18更新 / ズオテン

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