ビストピアは、巨大な三角州に作られた街だ。このポート・ベスティアは、河口の汽水と入り江を丸々見渡せる。今日が非番だったら、半日は水の異相と砂と波を眺め、両岸の景色のコントラストを堪能していたかもしれない。
「こうはいさん!またせてすみませんです!」めかし込んだクーシーが、四足歩行で駆けてきた。ふわふわした鬣をシニヨンに、明るい水色のワンピースに、パステルカラーのポーチがワンポイント。ライムグリーンのカーディガンは、昔飼ってた犬のウェアを想起させた。
「おとなりいいですか!?ここ、ながめきれいですよね!」舌を見せて、息切れしながら横に座り込む。彼女の黒目がちな瞳は、ジョバーナ河の絶景を反射した。海に向かって、左には反魔物「合衆国(ステイツ)」、左が親魔物「連合国(フェデレーツ)」だ。
人間と魔物は、数千年間も熱戦、冷戦、協調、反発、面倒なカップルみたいな関係だ。お前は、歴史の成績が赤点だったから、まったくそんなことに関心がないだろうが。ステイツは、「人間には」優しく先進的だった。人間は、皆平等だ。ヒューマン、エルフ、ドワーフ、あとオーガも一応。けれど、どうにも娯楽が少ない。フェデレーツは、「人間にとって」厳しく野蛮だった。人間の奴隷繁殖農場はあるし、死体がうろついて、毒と病気に満ちていた。飯は美味かったけど。
お前は、食いっぱぐれて、ステイツからフェデレーツの裏ルートを通ったこともあった。人間は、家畜だったが、ある程度従ってれば衣食住は保障されるし、女はべっぴんだらけだった。でも、稼げないし、結婚や恋愛の広告やコンテンツが氾濫していて息苦しい。独身で気ままにやるのが難しい。
「ビストピアは、じゆうとそうぞう、てんぼうのまちですからね!」まさに、ジャニスの言葉通りだ。この街(ビストピア)は、丁度いい。治安が終わってるが、その分縛るものはほとんどない。飯も美味い、娯楽は腐る程、人間も魔物も多すぎず、価値観は星の数ほど。身分とパスポートを、全財産はたいて偽造した甲斐があった。
「クレープおいしいです!」隣のクーシーは、ピタパンのかわりにケバブを挟んだクレープに齧り付いていた。お前は、同僚とデートしているのか?そういう訳では無い。「右手に見えますがぁ、こうわんちくのバロウズカスタム(税関)です!」ジャニスが言うには、禁輸品の密輸容疑者の摘発が依頼されたとのことだ。「きょうは、ながーいいちにちになりますよ!ちゃんと、はらごしらえしましょ!」
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
#12316;
「…だからサ、職員サン…オレらがヤク運ンだッていうショーコあるンすヵ?」丸刈りで、顔に入れ墨をした男が、机に足を載せて尋問する税関職員を逆に詰った。「カレ、コー見えテ、優しい人なんでス!ワタシたち、騙されてたンでス…」その横では、イタチめいた女があからさまに泣き落としにかかっていた。
「こりゃあ、しょはんじゃないですね!」クーシーは、監視カメラの映像を何度も確認しつつ、マジックミラー越しの取調室にいる東洋人達にコメントした。「しょーごーとれました!こっちのひとは、ジパング・ヤクザ、「フージンかい(風神会)」のこうせいいんです!」
お前は、石板端末に投影された資料を斜め読みした。「フージン・シンジケート、サブサイダリ・ギャング、ワカシューメンバー・オブ・カラカゼグミ(風神会二次団体空風組若衆)」だそうだ。隣の女は、ウィーゼル・ヨーカイの一種、カマエタチ(構え太刀)/ウィーゼル・トリアーキーらしい。フージンというのは、「風の神」を指すようだ。つまり、風属性のヤクザってことだ。
「カマエタチは、さんにんひとくみです!つまり、しょーこはほかのふたりのカマエタチがもってにげたにちがいありません!」彼女は、GPS(ゴッド・パースペクティブ・システム:神の目)のトラッカーを見せた。「このまちにはいってきたひとたちには、たいないにごくしょうのまかいぎんをちゅうにゅうされます!けつえきちゅうのたましいぶっしつとゆうごうして、とくいてきパターンをはっします!みつごであれば、おなじはんのうがさぐれるはずです!」
石板には、「カラカゼ・コウギョウCo.ltd」の文字列が表示された。この街では、みんなが犬みたいに自由だ。ドッグランのフェンスの中で、首輪を付けられ、飼い主の目の届く範囲にいればという前提だがな。お前は、餌を貰うためにヨソから来た野良犬を狩ればいい。
[5]
戻る [6]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録