『新年、明けましておめでとうごさいます!さて、今年も始まりました、第256回迎春福女ステークスでごさいますが…』「「「ワオオオオ!!!」」」
司会者の木霊が鳴り響き、楕円形に建てられた芝の競技場に、満員の観客席。一見すると、ここは競馬のレース場に見えるかもしれない。だが、奥に見える社殿や、寺社風の木造建築のスタジアム、着物姿の混じる観戦者はちぐはぐな印象を与える。
ここは、「キフネ神社」である。人間や妖怪変化が一堂に介している。今日は、初詣がわりの、年始の例大祭「福女ステークス」が開催されている。『今年は、何と言っても午年!ええ、そうです!本年は我々ケンタウロスにとって、そして、キフネ神社と全国の分社にも重要な一年となってまいります!』
司会の巫女装束は、上半身だけである。下半身は、栗毛の屈強な身体にポンチョ風の松の刺繍をあしらったあおりを着て、四つの足には特注の足袋と下駄様の馬沓を履いていた。『申し遅れました、司会進行および実況は私キフネメサイアでお送りいたします!解説は、こちら…』『新年からお集まりいただき、社の主たるミズカミさまもお喜びのことでしょう。宮司を勤めます、タカミと申します!』
手に持つ棒、御幣が光り、会場全体の石灯籠から声が発される。『それでは、早速、本年の出走者を発表いたします!』彼女が御幣を振るうと、巨大な絵馬掛けが出現した。『まずエントリー#1:ミドリコンコルド!』「女王様ーっ!」「最強・最速はお前のものだーっ!」『いやあ、すごい盛り上がりですねえ、御神職!』『そりゃあそうでしょう、何と言っても去年は彼女の年でしたもの!ジパング・ダービーでの活躍は、手に汗握りましたから!』
『続いて2:バブルガムロージィ!』「ミカドのご威光ぞ!」「流石は、華族の出!可憐にして、威風堂々!」『いきなり、今年大注目、一番人気が来ましたか!』『前半の故障を秋の帝賞で巻き返した、不撓不屈のお姫様ですね、メサイアさん!』
『3:ボムカスタード!』「コンコルドなんかに負けるなよ!」「赤い顔しやがって、それでも走れんのか!無理すんな、お前の身体が一番大事だからな〜!」『応援団の熱気が凄まじい!』『病弱な娘でしたから、どうしても支えてあげたくなる感じがあるんでしょうね!』『しかも、あのコンコルドとは引き分けた実力者!ライバルが揃って出馬します!』…
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もちろん、普通の参拝者もおり、参道には出店も多く見える。キフネ神社の御祭神は、水の神だが、そのご利益には「縁結び」も含まれる。
人間はもちろんのこと、今年こそ主を見つけたい落武者やクノイチ、付喪神等、そこらの林から参拝客に甘酒を集る鬼やナンパする魑魅魍魎もいる。神社の結界は、殊更邪悪な者を除いて、皆を受け入れるのだ。
「頑張れー!おんまさん!」「ママはここだよ!」子供や子連れが熱狂しているのは、「未出走馬レース」又の名を「赤ちゃん競走」。この神社で縁を結んだり、神前式の結納をしたケンタウロス夫婦の赤ん坊が、ゴールの親までヨチヨチ歩くのだ。
「おめでとうございます。御朱印ですか?お守り、絵馬は隣です」「御朱印帳にお願いします」「承りました」社務所前は、長蛇の列になっている。
「乗馬体験…今お待ちの方、30分です!」若駒や、引退した競走ケンタウロスもおり、さながら握手会の様相を呈していた。
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『カスタード、最終コーナー目前にして息切れか!?』『しかし、ジパング・ダービーでの活躍を考えると、失速するまでの間に逃げ切れるやもしれませんぬ、メサイアさん!』『はい、最終コーナーに今、カスタード、ロージィ、遅れてコンコルドォ!』
会場の盛り上がりは最高潮を迎え、最早息を飲む静寂と化した。ケンタウロス同士の下半身がすれ違いあい、人間の上半身は今や水平になりかけていた。一人身でも、鼻先の数センチでも早くゴールしなければ!
『ロージィが、突出!』『いえ、カスタードが追い上げて来ます!』『カスタード、最後の力振り絞る!』トップ2にやや離されたコンコルドは、しかしペースを崩さない。『二人の間に!』『コンコルド…』
ミドリコンコルド…バブルガムロージィや同着のライバル、ボムカスタードの視線は、そこに注がれ、観客を巻き込んで釘付けにした。最後の1mに満たぬ直線で、追い付き、追い越し、全てを引っこ抜いた。
『…おっと、コンコルドが差し込んだのかぁ!?』『…ゴール地点の結界で判定が行われます』『首位だけでなく、本年本日集まりました…勇士達が続々とゴールしていきます!』
会場の歓声が戻った頃、三番人気のボムカスタードは前足からへたりこむ。だが、両脇からバブルガムロージィやミドリコンコルドが支える。「決着…着きましたね」
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