「人間サマを自慢のマシンに載せるの楽しみだったんだぁ!」スパニエルは、ガレージの車両から布を取り去った。そこには、改造の末に原型がなくなったヘンテコな装甲車があった。
「載って、載って…!」お前は、小さな背丈と手に押されても微動だにしない。仕方なく、足を踏み入れた。「見て見てぇ!どぉ、すごい?」コボルド、ジュビリーは運転席に座った。背もたれにほぼ身体が埋まり、短い足はどうみてもアクセル・ブレーキには届いていない。
お前は、本当に運転できるのかと質問しようとした。「さてさてぇ!いっちょ、運転見せましょぉ!」ハンドルに見慣れぬグローブで触れた途端、それはゲームのコントローラーに変形した。フロントガラスには、意味のわからないシステム表示がなされ、カーナビや各種計数器が投影された。
「ジュビリーはねぇ、この"ハンナ"ちゃんと戦ってきたよぉ!隣にヒトを載せるのは久々だけどねぇ!」急発進、駐車場の螺旋出庫口の壁を走り、猛スピードで市街に弾き出された。その瞬間、お前はフロントから"発射"されなかったことで、シートベルトが自動で装着されたことに気づけた。
10分ほどのドライブは、信号無視7回と余所見・ながら運転、逆走、悪質追い越しのフルコースであった。だが、すれ違う白バイや乗馬警察は誰も気にしない、パトカーに擦り付けてもお咎めなし。何故なら、駐禁、暴走、襲撃、逃走、犯罪者はドライバーの過半数であり、ジュビリーのトラックには「肉球とK-9」が描かれていたからだ。
ジュビリーは、片手で運転、片手で動画サイト、足でゲームを行っていた。お前は、骨型のおやつを食べさせ、片手間に並走するストリートギャングを打ち払う。初日にしては、良いコンビネーションだったかもしれない。
「今日はまだ、並び少ない!幸運だぁ…?」ピッツァ・モイザースの看板が出迎えた。町中のあらゆる場所に、25分以内にピザを届けられると豪語する。だが、むしろビストピアの至る所から、昼休みの往復時間を惜しまず、長蛇…レミングの列が作られる、最高の名店だとシティガイドマップにも書いてあった。
だが、今日はアーヴァンクも、ポーキュパインもラージマウスの一匹すらいないのだ。「珍しいこともあるもんだぁ…」その呑気な笑顔のまま、スパニエルの獣人は足で何らかのボタンを蹴った。すると、装甲車の背面が開き、機関銃がせりだした。「…ここの店とホットラインあるからさ」
「あっ、ああー…おほん、ピザのドライブスルーを希望する、どうぞ」「…」返答はなかった。お前は、静まり返った店の様子とドライブスルーなんぞない外観、ジュビリーの声のトーンから、事件性を測った。「ビストピアーニシェ・ケーゼン=マキシームム…GサイズとMサイズどっちがオススメかな?」
Best keep mundane(普段通りにして)Guys or monsters?(人間か魔物か?)
「…あー、いつも、ご贔屓に…ええ、Gサイズだと待たずにご用意…あっ、Mサイズはちょっと、10から15分くらいですかね…」(人間は0、魔物が十数体)店主らしき酒焼けした低い声が、あまりに冷静に、ともすれば棒読み気味に、回答した。
「…へえ、やっぱりテイクアウトやめて店でたべよっかなぁ?ダーリンはどう思う?」(人間サマはどうする?)お前は、裏口かトイレから突入すると筆談した。「あっ、ちなみにぃ、トイレってどっち側?あ、奥の方ねぇ…席はどこ空いてる?」
「へえ…」生唾を飲み込む音に交じり、食器等が割れている音、カサカサとした足音に羽音…虫の魔物か?「…あ、すいやせん…入り口と窓側に二人ずつ…二階席が満員です」(入り口に二体、窓から見えるのが二体…二階はおそらく住居スペースか?)お前は、一方的通信をオンラインにしながら、トイレの窓から侵入した。個室を確認…クリア。
透過魔具により、廊下を挟んで個室、最奥に厨房(店主や人質数名、触角のシルエットが一体…)、二階にもシルエットあり。「…うーん、でも1分待って、ダーリンはトイレ借りたいって言ってたし。あっ、ペパロニトッピングできるかな。できれば、はい。できなければ、いいえで…」
お前は、ゆっくり扉を開けた。廊下を匍匐し、店主の回答を待った。「…できます」通信でなく、厨房の扉越しに肉声を聞いて、お前は消音を施した機関拳銃を抜いて、突入した。「…な、」微細な音を発して、ゴム弾が撃ち出された。
振り向いた魔物…特徴的な触角からデビルバグと思しきそれは、すぐさま天井に逆さまに這い上がり、耳障りな羽音を掻き鳴らし、襲いかかった。弾丸よりも速い蟲!しかし、そのキチン質の爪がお前に届くことはない…「消えた…!?」
簡素な魔法陣を残して、逆に空中に出現したお前は、稲妻の魔力迸る魔界銀の針を射出した。「…あがっ…」バチバ
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