所有之根向奈落伸長、是根堅州國也。或者所謂黄泉和閻魔表立、即是冥府。
根の国、すべての植物の根が達する、地の底。あるいは、
ヨミ、ヤマなる言葉でも表現される、冥界。「火の国」にて神祇と祭祀を司る、「カンツカサベ=スクネ」の家系は代々その場所を探していた。当代の石蒜宿禰八奈木麻呂(イワビル=スクネ・ヤナギマロ)も、時の御門の勅を受けた。
その者は実家にある書庫から、一つの竹簡を取り出して、目につく単語に着目する。「与母都可美奴加牟那岐井破久尼比売」…「ヨモツカミ=ノ=カムナギ、イハクニヒメ」:黄泉神の巫、いわくにびめと読める。
その竹簡には、くしゃくしゃに乾いて萎んだ、鱗ばった皮が挟まっていた。八奈木麻呂はいてもたってもいられず、すぐに陰陽寮や神祇司に持ち込んだ。しかして、「いわくにびめ=磐國媛」、すなわち「磐國(おろち)のえびす(異民族)の女長者」に手がかりがあるとの助言を得た。
御門は、すぐさま候の武士(サムライ)を護衛に、磐國へと船団を用意した。船頭は、大河を下るうちに、舵がきかぬことに気づく。水夫達が、水蛇の影を訴えるが、男は聞く耳を持たなかった。
果たして、蟒蛇が現れて、忽ちに船を大口に収めてしまったと言う。以来、磐國との国境の大河は、「於保久遅河」「大口川」と呼ばれているそうな。
「上記の話は、大雨で水嵩を増した、荒れ狂う急流を白蛇等の妖怪に仮託したのではないだろうかと言われています…か」山高帽に、鱗を思わせる襟巻き、着物の上に外套(マンテル)を羽織る老紳士が懐かしそうに、目を細めて展示を眺めた。
「まあ、先生とわたくしの馴れ初めじゃあありませんか…世間の皆様に知られるとは、恥ずかしくてなりません…」銀の長髪を「まがれいと」に整え、上半身はモダンな色合いの着物、下半身は色素の薄い鱗ばった異形の女であった。
「磐國クン、しかしだねえ…歴史人物とはそういうものなのだよ。夫婦生活を赤裸々に、それどころか、性生活を健康指南として後世に残した偉人もおるわけで…」くどくどと蘊蓄を垂れる男の髭を、血管の赤みが透けた尻尾が弄くる。
「そうは申しますが…しかし、私とあなたは互いの物…誰にも覗かれたくはないですわ」「ほっほっほっ…君は一途というか、独占的というか、オプゼシーフェ(強迫観念が強い)だねえ」老人は、腕を伸ばし、白蛇に指を曲げる仕草をした。
女怪は、嬉しそうに頬の血を赤め、ぬるりと尻尾を絡めていく。「帰りますか?」「ええ…」「細君はご機嫌ナナメかしらん?」「さあ、お夕飯の晩酌を無しにしようかとちょっと考えたくらいでしょうか」「まあそう言わないでおくれ。美人を肴に、お屠蘇を呑むくらい良いじゃあないか」
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「今日は呑む調子がわるうございません?」粗方料理の片付いた食卓で、白蛇は夫の漆の平杯に並々と注ぐ。「いやあ、もういけませんよ。ぼかぁ、明日もフェルトフォーアシュング(野外の調査)に行かなければならぬのだ…」彼は何とか飲み下し、妻の持つ何倍も大きな皿に酌を返す。
「…ふふふ、あなたから頂くおささはどうして、こうも美味しいものなのでしょうか?」「そりゃあ、君を愛してるからじゃあないかね」「先生もお上手で…」「それにつけても、磐國クンの呑みっぷり、まさにざるか、うわばみか」「そんな妹(いも)、しだらなく思われますか?」
「ふむ…」瓶底の眼鏡と酸漿の赫い瞳が視線を交わした。潤んだ目は、まるで血が湧き出すように見える。「…明日は休みにしようかね。来なさい…」老学者は、蛇人の鱗を擦った。
「…まあ熱い」「君はいつでもちょっと冷たくて…撫で心地が良いねえ」白蛇は夫を簀巻きにして、奥の襖に向かう。ひとりでに、襖がいくつも開いていく。その先には、燭台もなく月明かりだけの部屋。大きな布団が一つ、枕は二つ。
「…陰陽、雌雄というのは、完全性を二分した物と思わんかね?」「…黄泉津大神様も、兄君たる天津豊稔大神と、『陰(ほと)』と『陽(おわせ)』…互いを補完することで島々や神々を産み出したとお仰せ給われました」
『貴女(にょしょう)の躯の造りは、どうなっているのですか?』鱗の隙間、臍の下を探ると、柔肌と硬皮の境には濡れそぼる桃色の襞がある。『んっ…育っても、ココが未だに…欠けているのです』
それを聞いた夫は、陰茎を奮い立たせた。『私(なんしょう)の方は…ふう…育ち切って尚、ココがどうにも伸びて…ああ、仕方ありません』長い指に擦られ、先端が裂けた舌で舐められて湿った吐息を洩らす。
「ふふふ、このくだりを読み上げると、どうにも興奮しますね」「最古の艶本、春画とも言えるからなあ。ところで、二柱は"妹兄(いもせ)"ではあったが、本当に近親相姦だったのかね?」「今、気にするとこ
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